市村産業賞

第45回 市村産業賞 貢献賞 -02

高音質オーディオ符号化方式の開発と実用化

技術開発者

日本電気株式会社 情報・メディアプロセッシング研究所
主任研究員 野村 俊之

技術開発者 同社 同研究所
主席研究員 杉山 昭彦
技術開発者 同社 技術・知的財産統括本部
エキスパート 岩垂 正宏
推  薦 一般社団法人 電気通信協会

開発業績の概要

 デジタルオーディオの応用分野拡大に向け、オーディオ信号をより少ない情報量に圧縮する高音質オーディオ符号化の実現が期待されていた。この実現に向け、ISO/IECは、蓄積媒体用動画像符号化に関する標準化(通称MPEG)を1988年に開始した(第一世代の標準規格)。続いて、適用範囲をデジタル放送に拡げるため、低ビットレートながら高音質なオーディオ圧縮技術(第二世代の標準規格)の標準化が1994年から開始された。その後、デジタル放送を基盤とする新たなサービスとして有望な携帯端末向けのモバイル放送の実現が重要となり、そのために第二世代標準規格よりも更に低ビットレートのオーディオ圧縮技術(第三世代の標準規格)の標準化が2001年から開始された。
 受賞者らはMPEGオーディオ標準化活動を通じて、各世代のオーディオ符号化の技術課題を解決した。具体的には(1)可変ブロック長適応変換符号化技術の開発により、コンパクトディスク帯域の広帯域オーディオ信号の汎用符号化方式を確立し、(2)可変ブロック長適応変換符号化を基本原理としたパルス成分ロスレス符号化技術の開発により、高圧縮率と放送品質を両立し、(3)低電力な携帯端末にも搭載可能な低演算量オーディオ帯域拡張技術の開発により、圧縮率を更に向上した。以上により、デジタル放送のチャンネル数増大に対応し、携帯音楽端末の記録可能楽曲数なども飛躍的に向上させることができた。
 開発した高音質オーディオ符号化方式は入力信号を1/8乃至1/32に圧縮することができ、その結果、携帯端末からテレビに至るまで、あらゆる場所や状況におけるオーディオ聴取を可能とした。また、開発技術はオーディオ標準化各世代にあたるMPEG-1 Audio、MPEG-2 AAC、MPEG-4 HE-AACや、それ以降のMPEGオーディオ規格に採用され、携帯音楽端末や国内外のデジタル放送配信など世界中で多様なサービスを実現している。今後も多様なデジタルオーディオ機器での新サービス創出への貢献が期待されている。


図1
図2