市村産業賞

第45回 市村産業賞 貢献賞 -03

大電力無線機器の狭帯域化を実現する送受信超伝導フィルタの開発

技術開発者

株式会社 東芝 研究開発センター 機能材料ラボラトリー
研究主幹 加屋野 博幸

技術開発者 同社 社会インフラシステム社 電波システム事業部
技監 篠永 充良
技術開発者 同社 研究開発センター 機能材料ラボラトリー
研究主務 河口 民雄
推  薦 一般社団法人 電気通信協会

開発業績の概要

 無線LANやスマートフォンの利用が拡大し無線機器は生活に広く浸透しているが、周波数資源の枯渇が問題になっている。これを打開する周波数有効利用技術として、無線機器の狭帯域化運用に必要な狭帯域性と耐電力性を併せ持つフィルタの開発が切望されていた。
 受賞者らは狭帯域で低損失という超伝導体の特長を生かした超伝導共振器を実現するため、電力放射を最小化して損失を抑制し、電力集中を招く折り曲げ部を排除した平行2線型結合共振器技術を開発した。また、超伝導共振器の弱点である耐電力性を改善するため、大電力に強い空洞共振器により超伝導共振器を挟み込むことで大電力が超伝導共振器を通過しないフィルタ回路を発明し、大電力信号と小電力信号の通過経路が異なるフィルタ構成であることを特徴とする世界初の送信用超伝導ハイブリッドフィルタ技術を開発した(図1)。
 本開発の平行2線型結合共振器技術による受信用超伝導フィルタは、世界最小の容積と従来の2/3以下の通過損失特性を有する。また、本開発のハイブリッドフィルタ技術による送信用超伝導フィルタは、従来の超伝導共振器フィルタより5桁高い100kWの耐電力性とレーダに使われる従来フィルタの1/10以下の狭帯域性を併せ持つ。この送信用超伝導フィルタは、新型気象レーダに搭載され、気象レーダの狭帯域化運用を世界で初めて実現した。
 本開発により、従来実現が不可能とされていた大電力無線機器用の狭帯域フィルタが実用化された。本技術は、全ての無線機器に適用することができ、フィルタの新たな適用領域を切り開いた(図2)。また本技術は、無線機器の狭帯域化運用を可能にする基盤技術として、周波数の有効利用への寄与を通じて安全・安心・快適な社会づくりへの大きな貢献が期待される。


図1
図2