市村産業賞

第47回 市村産業賞 本賞 -01

環境負荷低減型超ハイテン橋梁ケーブル用鋼線材

事業経営者 新日鐵住金株式会社
代表取締役社長 進藤 孝生
技術開発者 同社 棒線技術部 棒線商品技術室
主幹 谷田部 比呂志
技術開発者 同社 君津製鐵所 品質管理部 線材管理室
主幹 疋田 尚志
技術開発者 同社 技術開発本部 君津技術研究部
主任研究員 真鍋 敏之
推  薦 一般社団法人 日本鉄鋼協会

開発業績の概要

 近年、海外にて吊り橋や斜張橋といった長大橋プロジェクトが数多く計画されている。橋梁のメインケーブルに使用される溶融亜鉛めっき鋼線(以下ワイヤ)は、橋の仕様を決定する重要部材であり、長大化や設計自由度の観点から高強度化やワイヤの太径化が求められている。従来、このワイヤは、線材をワイヤ加工メーカーにて加熱し、鉛浴に浸漬する「鉛パテンティング(以下Lead Patenting)」と呼ばれる熱処理を施し製造されてきたが、単線処理で生産性が低い上に、鉛処理による環境負荷が高かった。
 これらの課題を解決するため、熱間圧延直後に溶融ソルト浴に浸漬する「直接パテンティング(以下DLPR:Direct in-Line Patenting)」処理を施した高強度線材を開発した。DLP 材は、コイル状で熱処理される為、LP 材と比べ強度や組織がバラつくことや、高Si 添加鋼である為、コイル表層に有害な軟質金属組織(ベイナイト)が生成し、ワイヤの延性が安定しなかった。本開発では、次の2 点の手段でワイヤの延性を向上させた。(1)圧延直後の強水冷で熱処理前の結晶粒径を細かくコントロールすることによるバラつき低減 (2) B、及びTi 添加によるベイナイト組織の抑制
 本技術により、生産面では熱処理線材の生産性を向上させるとともに、ワイヤメーカーでのCO2排出量の低減と鉛フリー化を実現した。更に素材面ではワイヤ延性向上と線材熱処理の線径制約が無くなることで、ワイヤの強度と線径の製造範囲が拡大した。本開発鋼は既に中国、トルコの橋梁案件に適用されている。これらの優れた生産性、性能により、橋梁の設計自由度拡大と施工期間の短縮に今後更なる貢献が期待できる。

図1


図2


図3