市村産業賞

第51回 市村産業賞 貢献賞 -05

高延性厚鋼板の開発による船舶衝突安全性の向上

技術開発者 新日鐵住金株式会社 技術開発本部 鉄鋼研究所 厚板・形鋼研究部
主幹研究員 市川 和利
技術開発者 国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所
海難事故解析センター
副センター長 山田 安平
技術開発者 今治造船株式会社 設計本部
執行役員 船体設計担当 紙田 健二
推  薦 一般社団法人 日本鉄鋼協会

開発業績の概要

1.開発の背景
 船舶の衝突事故による甚大な被害は後を絶たず、衝突により油漏洩を引き起こせば、深刻な環境被害を招く。そこで新日鐵住金は、船体構造の変更ではなく、衝突による船舶の損傷を軽減する材料開発が経済合理性に適っていると考え、海上・港湾・航空技術研究所及び今治造船と協力し、衝突安全性に優れた船体用高延性厚鋼板の開発、実船適用を目指した。

2.開発技術の概要
 新日鐵住金は、「清浄度・原子配列・特性一貫制御技術」により、従来鋼の伸び規定値より5割以上の高い伸び値を実現した世界初の鋼材NSafe®-Hull(以下NS-Hull)を開発した。これを適正配置することで、衝突安全性を高めることができることを海上・港湾・航空技術研究所とも連携し、シミュレーションと大型実験で検証した。NS-Hullは今治造船建造の大型ばら積み運搬船に初採用され、超大型原油タンカーへも採用される(図1)。

3.開発技術の特徴と効果
 開発・適用した「清浄度・原子配列・特性一貫制御技術」の構成は以下の通りである。
(1)溶鋼の造込み工程での不純物(P、S)の極限低減と介在物(MnS)の制御
(2)圧延・冷却工程での軟質相と硬質相の金属組織比率の最適化と組織の微細分割
(3)圧延後の水冷方法の革新による伸びのばらつき低減と板厚方向の硬さ分布の均一化
 NS-Hull は従来鋼と同等の強度や加工性を有しながら大量生産でも優れた延性を有する。
有限要素法の結果では、NS-Hullの破口発生までの衝突吸収エネルギーは、例えば約3倍も向上し、衝突後、従来鋼は大きな破口が生じたが、NS-Hull は大きな破口は生じない(図2)。
 NS-Hull の適用により、衝突時の破口に伴う油漏洩の危険性を大幅に低減可能で、油漏洩による生態系破壊の防止やその補償のための経済損失の低減に大きく寄与できる。

図1

図2