構造ゲノム科学の一翼を担うタンパク質結晶構造解析技術は、大型放射光施設、コンピュータ解析技術の飛躍的な進歩により、生命科学や創薬の強力かつ必須な手法となった。しかし、必要不可欠な過程となる結晶化においては、試行錯誤の段階から抜け出せたとは言えない状況であった。
本研究業績は、結晶成長中の溶液は静置状態が理想である、とされる従来の常識とは全く逆の発想で、レーザー照射による結晶核発生技術、及び溶液攪拌による高品質結晶大型化技術という全く新しい手法を創製した、というものである。この新規手法により、従来法では結晶化が困難であった数多くの難結晶化タンパク質の高品質結晶化が可能になった。さらに、本技術は、タンパク質結晶化だけではなく、創薬ターゲットそのものである有機低分子化合物の結晶化が簡単に実現されるなど、低分子化合物の構造解析や多形探索にも極めて有効であることが実証されている。また、結晶化成功事例だけでなく、レーザー照射により発生したキャビテーションバブル表面で高濃度タンパク質領域が生成されることが結晶核発生を促進していることを突き止める等、原理解明にも成功している。本業績を基に、受賞者らが中心となって、タンパク質・有機低分子の結晶化受託事業を行う大学発ベンチャー「株式会社創晶」を2005年7月1日に設立し、創薬分野への貢献が行われている。
本技術は、構造ゲノム科学研究の進展の鍵を握るタンパク質の高品質結晶化を最も高確率で実現できる方法であり、今後も、結晶化がより困難な、膜タンパク質をはじめとする様々な難結晶化タンパク質・有機低分子化合物の構造解析を実現し、生命現象解明、及び創薬の進展に寄与していくと期待される。
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