市村学術賞

第45回 市村学術賞 貢献賞 -01

電場駆動型高分子を用いた軽量薄型スピーカの開発

技術研究者

日本放送協会 放送技術研究所 テレビ方式研究部
杉本 岳大

技術研究者

同研究所 同研究部
主任研究員 小野 一穂

推  薦 日本放送協会

研究業績の概要

 現在、コンサートホールなどの空間で収音された音場を、家庭などの全く異なった空間で再現できる音場再生技術の開発が活発に進められている。しかし、再生音場の高品質化には多数のスピーカが必要となるため、コイルと磁石から成る一般的な動電形スピーカの重量・奥行きが、実用化への障壁となっている。
本研究成果は、電場応答性を持たせた高分子素材(電場駆動型高分子)を発音体に利用することで、従来の概念を 大きく覆す軽量かつ薄型のスピーカを実現したものである。電場駆動型高分子の特徴は電圧印加による素材の形状変化であり、その動作原理は、基板の両面に成膜した電極間への電圧印加によって生じた基板の膜厚の減少が、フィルム面の増大に変換される仕組みに基づいている。受賞者らは、柔軟な熱可塑性ポリウレタンエラストマーフィルムの基板と、伸縮可能な導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンによる電極から成る、発音体に適した電場駆動型高分子を考案した。また、電場駆動型高分子の材料定数と音響特性との関係を定式化することで発音効率向上のための条件を導出し、ポリウレタンの特性改変によって2倍近い音量増大を実現した。さらに、電場駆動型高分子の膜厚変化ではなく、膜の面積変化を利用する方が周波数帯域拡大の観点から有利であることを実証し、2枚の電場駆動型高分子フィルムの面積を交互に変化させるプッシュプル型構造を開発することで、広い再生周波数帯域を実現した。
 試作した発音体(直径16 cm)の重量は、同口径の動電形スピーカユニットのおよそ1/20の60 gである。また、既存のスピーカと同等の広い再生周波数帯域(80 Hz〜15 kHz)を獲得できたことは、特筆すべき点である。本スピーカは低廉な高分子素材から成るため、従来のスピーカと比較して、大量生産による大幅な製造コストの削減が見込まれる。さらに設置場所を選ばないスピーカとして、家庭での音場再現の自由度の拡大に貢献するとともに、携帯機器・車載スピーカなど、軽量スピーカを必要とする様々な分野での応用が期待される。

図1

図2