新技術開発助成

「限りある資源を無駄なく効率よく」で、“驚きの装置”を生み出した

「高含水物の粉砕・乾燥・混合を同時に効率的に行う装置の開発」
第84回(平成21年度第2次)助成

ミクロパウテック株式会社 (福井県) 代表取締役 長谷川敬士さん
“限りある資源を無駄なく効率よく”を合言葉に、驚きの装置を生み出した長谷川社長(後列中央)と社員のみなさん
“限りある資源を無駄なく効率よく”を合言葉に、驚きの装置を生み出した
長谷川社長(後列中央)と社員のみなさん

「あり得ない!」を覆し、たった1秒で微粉末回収

■これまでの不可能を可能に
 「ミクロ」「パウダー」「テクノロジー」の3つの言葉を結びつけ社名としたミクロパウテックは、"限りある資源を無駄なく効率よく"を合言葉に、粉砕加工技術開発に取り組んでいる。そして2011年に完成、「セントリドライミル」と命名された装置は、まさにこれまでの粉砕加工の不可能を可能にした。
 発売1年後の秋、セントリドライミルを発注したものの「原料の粉砕・乾燥・混合を同時に、しかも短時間で行う機械なんてあり得ない。他にもあるのだろうか」と思った食品メーカーの社長。約180社が出展した東京での粉体工業展で関連ブースを回ってみた。しかしセントリドライミル以外に見つけることはできなかった。導入後の大満足に引き継がれたこの社長 の"あり得ない!"を覆す驚きは、次第に業界や関連企業全体の驚きへと広がっていった。
■新たな食材としての用途を拡大する
 セントリドライミルは主に野菜・果物・穀物等々の水分を多く含む食材を同時かつ瞬時に粉砕・乾燥して微粉末化し、新たな食材として用途を広げる装置。従来は、生の材料から殺菌、乾燥、粉砕をそれぞれの加工で別々の装置を用いて行い粉末を製造するという工程をとっていた。そこでは装置全体が大きく高額で、特に高温下での乾燥工程であったり長時間を要したりで、食材の栄養成分の破壊や色を悪化するという欠点があった。
 セントリドライミルでは、羽根状ローターの高速回転で起こしたチャンバー内の旋回気流中に、誘引ブロアで熱風を引き込み、カットして投入した材料を相互に衝突させ、細かな粒子に粉砕し乾燥する。粉砕され表面積が増えた材料の粒子は、乾燥するとさらに粉砕が進み微粒子化(最小Ø10μm)される。この同時粉砕・乾燥から粉末回収に要する時間はなんと1秒以下。しかも80〜90℃の低温乾燥であるため、栄養成分の破壊や風味、色等の劣化は起こらない。また瞬間で水分を蒸発させた乾燥粒子に熱がかかることで、一般生菌、大腸菌群等の殺菌効果も発揮される。
微粉砕・乾燥システム構成

“世界唯一”の装置に各方面からアクセス殺到

■きっかけは、「捨てられるオカラがもったいない」
 「殆ど捨てられているオカラがもったいない、パウダー化すれば素晴らしいものになる、というのがきっかけ。3年かかったがコンパクトで従来装置の約1/3という低コスト、そして効率の良い"世界で唯一"の装置になりました」と長谷川社長が言うセントリドライミル。そのオカラ微粉末はケーキ、麺類等の小麦粉代替・栄養価向上、ダイエット食品への天然プロテイン・食物繊維付加等に利用されている。そして、γ-アミノ酪酸(ギャバ)を多く含む金時草は血糖値低下食品、セリは成人病予防の健康食品、玉葱はブラウンソースの調理を短時間で簡単に行う原料として、山葵はさらなる風味アップ、人参、南瓜、ほうれん草等はスープ・流動食品・パン・洋菓子への味付けと食物繊維供給等々と、活用事例は枚挙にいとまがない。
■高汎用性が特長のセントリドライミル
 癌研究の世界的権威であり、「活性酸素と野菜の力」(幸書房)の著書で有名な農学・医学博士である前田浩・熊本大学名誉教授(医学)/崇城大学DDS研究所特任教授から、セントリドライミルで製造した野菜パウダーや果物パウダーの品質の高さについてのお墨付きを得たことからも証明されるように、現在、食品・薬品業界にとどまらない各方面からの問い合せ、サンプル作製依頼が殺到している。
 乾燥粉砕は勿論、同時混合も可能という点に着目した石川県・金沢大学ベンチャーラボからは、複数の加賀野菜をブレンドしてのお茶作り、人参をピューレにして販売している北海道の知的障害者施設からは、管理コスト削減と地元特産品による障害者支援促進のためのパウダー作り、漁業団体から例えば魚の頭や白子の微粉末化の可能性、ある東南アジア国大使館からは余剰マンゴーの活用について等である。「高汎用性が特長」のセントリドライミルは、その多くの計画を既に実働に移している。
カットして材料供給装置から投入した材料(写真はブロッコリー)は1秒後には材料の栄養成分、風味、色合いを保持した微粉末となって回収容器に回収される(本社工場のデモ装置での実施)
カットして材料供給装置から投入した材料(写真はブロッコリー)は1秒後には材料の栄養成分、
風味、色合いを保持した微粉末となって回収容器に回収される(本社工場のデモ装置での実施)

業績好調の勢いを、世の中への貢献に向けていく

■食料・農業問題の解決に、さらに活躍させたい
 わが国には特に昭和40年以降の食生活の変化、それに影響を受けた農地面積や生産者数の減少等から、先進国では最低という食料自給率の問題がある。一方で、世界的にも品質への信頼度は高いものの、規格外というだけで未利用のまま廃棄される大量の農産物がある。身近なスーパーやコンビニチェーンの弁当についても、炊き過ぎや炊飯状態の不具合等を理由に、割高なコストをかけ産業廃棄物として捨てられるご飯の量はばかにならない。
 「規格外農産物や食品工業分野のバイプロダクトが新たな生産物として利用されることが増えれば日本の食料課題、農業問題、また発展途上国での人口増加と食糧不足危機の改善につながると考えています。セントリドライミルはそのためにもより幅広く活躍させていきたい」と長谷川社長。
■産業振興、農業強化、循環型社会実現のために
 ミクロパウテックは、現在セントリドライミルを柱に5機種の微粉砕機及び粉砕乾燥装置をラインアップ。熱に弱い酵素溶液等はもとより、様々な溶液の微粉末化、樹脂原料の特種な微粉砕加工、バイプロダクトや廃棄物の加工によるリサイクル化促進等の分野でも実績をあげ、3年間で売上高を3倍に伸ばした。
 同社では、こうした展開を通じ、関連する開発・生産・販売等裾野拡大によるわが国の産業振興、国内農業の競争力強化、環境保全と循環型社会実現への貢献に向け、"限りある資源を無駄なく効率よく"での推進に、全社一丸で一層の拍車をかけている。
(取材日 2013年12月3日 於福井県坂井市 ミクロパウテック)
坂井市の本社工場

ミクロパウテック(株)プロフィール

平成18(2006)年6月、粉砕機器装置の製造・販売を事業として創業。2009年、助成対象装置の開発に着手し新技術開発財団に助成申請。2011年に装置を完成すると共に発売を開始した。福井県坂井市の本社とあわら市に工場を置き、9名の社員により全国に粉砕機器装置の開発・設計・販売および粉砕加工業務の受託、粉体商品開発に関するアドバイス業務を展開。現在助成技術をさらに進化させ、粉砕・乾燥加工=パウダー事業分野の常識を次々と塗り替えつつある。