新技術開発助成

高速鉄道の未来を、たゆまぬ改良と進化で担う、軌道用スラブ型枠

「新幹線用(鉄道用)軌道スラブ版型枠の開発」
第95回(平成27年度第1次)助成

株式会社佐藤工業所 (静岡県) 代表取締役 佐藤 輝男さん
佐藤輝男社長(右端)、野中泰志取締役(中央)、佐藤鐘允取締役(左)
佐藤輝男社長(右端)、野中泰志取締役(中央)、佐藤鐘允取締役(左)

高速鉄道の先端技術に求められる技術革新

■将来性が期待される鉄道用軌道スラブ
 整備新幹線の標準軌道構造である「軌道スラブ」は、高速鉄道の最先端技術として海外から熱い視線を注がれており、台湾新幹線等にも採用されている。今後、日本の鉄道技術の海外展開が見込まれる中、安全で快適な高速走行を支え、先進的な軌道構造機構は保守の省力化にメリットをもたらし、高速鉄道の発展に大きく寄与するだろう。中でも、鉄道用軌道スラブや枕木は、鉄道の安全輸送を縁の下から支える大変重な基幹部品の一つである。現在、高度成長期に作られたトンネルや橋の老朽化や安全性が問われているが、労働者人口が減る中、鉄道用軌道スラブも低コストでの長期耐久性の実現が求められている。

■長期耐久性を実現する新技術
 一般的に鉄道の枕木や軌道スラブ、橋梁などで使用される床板などには、あらかじめ圧縮力をかけて引張りによるひび割れが入りにくい「プレストレスト・コンクリート」(以下PC)が多用されている。特に軌道スラブでは、レールを固定するための埋込栓ボルトなどの部品設置や、鉄道の加重や振動に対する長期耐久性は必須であり、PCの活用が欠かせない。その反面、一路線で何万枚にも及ぶ軌道パネルを同一のクオリティで造る難しさもあり、鋼製型枠の設計製造は技術的に高度化していた。今回、佐藤工業所が開発した新技術は、新幹線用軌道スラブのレール締結装置である埋込ボルトの固定手法、PC鋼材の後埋め材の脱落防止策、軌道スラブの欠け防止策などに関するものである。

新規型枠から取れた軌道パネル(三分の一モデル)
新規型枠から取れた軌道パネル(三分の一モデル)

新規型枠が備える3つの新技術が、労働力の確保に貢献

■「人命を預かる」商品に向き合う
 開発にあたって、佐藤工業所が重視したのは現地調査だ。まず、北海道・青森・北陸の各新幹線建設現場において使用状況を調査し、現状の問題点や改善検討を行った。その中から改良箇所を絞り込み、仕様変更が可能と思われる小部品から順次試作を始めた。その後、数種類の締結装置を部分的に組み込み、顧客の反応を伺いながら型枠の微調整を繰り返す日々が続いた。佐藤社長は、「鉄道の枕木や軌道スラブに関わる私たちの製品は、鉄道工事全体の善し悪しを決めてしまう。社内では“尊い人命を預かる商品の創出”を合言葉にしているが、最終的には例え寸法1ミリでも以前より改良できるように、お客様の要望を聞くことを心がけている」と、製品開発にかける心情を振り返った。

■現場の声を反映し、3つの新技術を備えた型枠
 こうした地道な実地調査から浮かび上がったのは、製品のコスト面や安全性への要望はもちろん、それを支える女性や高齢者といった“現場従業員の作業性の向上”が強く望まれていることだった。例えば埋込栓ボルトは、これまで鋼製型枠への固定に大きな力が必要で、型枠の下に潜り込む作業姿勢を要する重労働であった。そこで、鋼製型枠に一列に連動する固定ピンを配置することにより、片手でハンドルを回すだけで埋込栓ボルトが固定される仕組みを開発した。また、PC鋼材の後埋め材の脱落防止策には、PCダボ穴型に螺旋状の溝を刻むことで、後埋め材の抜けが防止できた。さらに、軌道スラブの四隅にはアール形状を施すなどの改良を行った。これは軌道スラブの品質のばらつきを抑えるだけでなく、ひと枠で500回以上も使用することがある型枠自体も壊れにくくなる恩恵を生んだ。

レール締結装置:テーパーピンを挟み、斜めスライドさせて埋込ボルトを固定。また、ハンドルと連動させることで同時に2~30締結が可能となる
レール締結装置:テーパーピンを挟み、斜めスライドさせて埋込ボルトを固定。また、ハンドルと連動させることで同時に2~30締結が可能となる
脱落防止策:PCダボ穴にネジ山形状を刻むことで、振動や寒冷地でも後埋め材が脱落しにくくなる
脱落防止策:PCダボ穴にネジ山形状を刻むことで、振動や寒冷地でも後埋め材が脱落しにくくなる

欠け防止策:型枠を一体成形することで隙間をなくし、脱型した際のコンクリートの欠けを防止する
欠け防止策:型枠を一体成形することで隙間をなくし、脱型した際のコンクリートの欠けを防止する


たゆまぬ技術改良で課題を解決し、世界に「安心、安全」を届ける

■高い評価の一方で、見据える将来課題
 3つの新規技術を盛り込んだ型枠は、打設時間の短縮、生産品質の確保、そして労働力の確保を容易にしたことで、現在、九州新幹線と北陸新幹線で採用され、アジア圏のMRT(都市高速鉄道)からも多くの引き合いを得るまでに高評価を受けている。盤石に思える新技術だが、いくつかの課題も残されている。その一つがコスト面。新たな試みを盛り込んだ型枠単体は、従来品に比較して単価の上昇が避けられない。これは、作業全体を生産性、工事後の保守性までで捉え、トータルコストのメリットを強調することで理解を促したいと考えている。また、新規型枠の技術は、どれも顧客の要望を汲み取った創意工夫から成り立っているが、その形状は同業者が見れば真似することは容易だ。今後、海外での事業展開が増えるにつれて、技術移転や模倣の対策も考える必要がある。

■世界に広がる「安心・安全」な製品づくり
 現在、日本がオールジャパン体制でアジア各地へMRT工事の攻勢をかける中、佐藤工業所も海外からの受注が増加中だ。また、国内へ目を向けても新幹線関連の工事では計画の策定段階から参画し、製品の共同開発・改良・試験等を繰り返している。「弊社が関わらせていただいた工事で使用される商品の改良には意欲的に取り組んでいます。いくつか課題はありますが、今後も常にお客様の動向や要望にアンテナを張り、それにいち早く対応できる体制づくりを突き詰めて、世界へ安心・安全な製品をお届けする意向です」と、佐藤社長は将来の構想を語った。
( 取材日 令和1年12月9日 静岡県藤枝市・(株)佐藤工業所 )

(株)佐藤工業所 本社工場(静岡県藤枝市)
(株)佐藤工業所 本社工場(静岡県藤枝市)

(株)佐藤工業所 プロフィール

1954年、コンクリートバイルの薄母型の製作を皮切りに、型枠専門メーカーとして創業。以来、鉄道や高速道路、モノレール、地下鉄など、陸上交通網の整備・発展にともない、全国の様々な公共工事で軌道・枕木・橋桁・トンネルなどの型枠を製作・提供。ポリシーは、より高精度に、より早く、そしてより安く。技術革新による型枠技術の高精度化と高強度化の追求、スピーディな設計・製作技術の構築、そして、ソフト&ハード両面の充実と作業効率アップによるコスト低減化への模索を通じて、今後も豊かな社会作りの一員として責任を果たす。従業員74名。