植物研究助成

植物研究助成 21-02

高速シーケンス技術を利用した果樹栽培土壌の環境評価システムの開発

代表研究者 山梨大学 大学院医学工学総合研究部
准教授 鈴木 俊二

背景

 植物を育てる上で、「土壌」の重要性は言うまでもない。土壌は、構成粒子に基づく物理的性質、含有イオンによる化学的性質、そして土壌生物による生物的性質により評価される。永年性作物である果樹は、土壌のバランスが一度崩れると、回復するのに数年を必要とする。物理的および化学的性質の計測技術は確立済みであり、果樹農家もこれらの土壌評価を定期的に行っている。対して、土壌に生息する生物は多種多様であり、これを解析することは容易ではないため、生物的性質の計測法は未だ開発されていない。特に、土壌中には純粋培養できない微生物が非常に多いため、従来の人工培地を用いた土壌微生物の同定技術では、培養可能な約1%の種しか同定できない。

目的

 本研究は、果樹栽培土壌環境評価システムの開発のために、高速DNAシーケンス技術を用い、土壌中の菌類を網羅的に同定する。平成22および23年度において、定期的に採取した植物研究園梅林の土壌から、10,000を越える菌類に相当するDNA塩基配列を得ており、難培養菌類、未同定菌類の存在も確認した。加えて、山梨大学ブドウ園の土壌を同法で解析し、50,000弱のDNA塩基配列を得た。平成24年度では、データの更なる蓄積および解析を継続し、本研究が提案する環境評価システムの有効性を評価するとともに、果樹栽培土壌に生息する菌類データベースをインタ−ネット上に公表することを最終目的とする。

方法

 植物研究園梅林および山梨大学ブドウ園を研究フィールドとする。植物研究園梅林では、年4回(6、8、11、2月)、ブドウ園では年2回(8、2月)、地下30cmの土壌を数箇所採取する。土壌から直接DNAを抽出後、PCR法により菌類のrDNA遺伝子を増幅し、高速DNAシーケンス技術のひとつ、パイロシーケンス法に供試し、菌類DNA塩基配列を取得する。加えて、これまでに得られた菌類DNA塩基配列とともに、植物研究園梅林およびブドウ園に生息する菌類データベースを構築し、インターネット上で公表する。

期待される成果

 果樹栽培地の土壌の性質は、果実品質に直結する。本研究が目指す果樹栽培土壌環境評価システムにより土壌の生物的性質が解析できれば、土壌に生息する優先種と果実品質との相関関係も解析可能となる。また潜在的に存在する病原微生物を同定できれば、病害予測にも適応できる。本評価システムは、生態系の整った植物研究園梅林土壌から開発を推し進めてきたが、ブドウ園のデータを比較対象とすることで、本評価システムの他果樹栽培への展開も目指す。