植物研究助成

植物研究助成 21-03

伊豆七島の照葉樹林における菌類の多様性と地理的分布の解明

代表研究者 京都大学 生態学研究センター
准教授 大園 享司

背景

 菌類は推定150万種が存在するとされており、地球上の生物多様性の大きな部分を担っている。また菌類は生態系における分解者、共生者、寄生者として、他の生物にはないユニークな役割を担っている。それにも関わらず、菌類はこれまでに約10万種しか記載されておらず、わが国でも1万余種しか報告されていない上に、その機能的な役割が未だ未解明のものが多い。菌類は肉眼では見えない微生物であるため、その研究にはある程度の手法的な困難を伴うが、植物の生育環境特性を理解するためには、植物と深く結びついて生活を営む菌類の多様性と機能を、生態学的に解明する試みが不可欠である。 

目的

 伊豆七島の照葉樹林に生息する菌類の多様性と地理的な分布パターンを解明することを目的とする。照葉樹林の主要樹種であるシイ類およびヤブツバキの落葉の分解に関わる菌類と、シイ類をはじめとするブナ科樹種などの細根に感染し、共生的な養分吸収の役割を担う菌根菌を研究対象とする。前年度の本助成課題により、伊豆半島の照葉樹林におけるこれら菌類群の多様性と分布パターンを明らかにした。本年度は伊豆半島よりも南方に位置し、気候が比較的温暖な伊豆七島を対象として、最新の分子生物学的手法を用いた菌類の多様性調査を行うことで、伊豆地域における菌類多様性の理解をさらに深化させて、新規性の高い研究を行う。

方法

 野外での試料採取と実験室内での試料処理を行う。伊豆七島のうち大島、三宅島、八丈島の3島を対象として、シイ類・ヤブツバキの落葉、林床に出現する外生菌根菌の子実体および土壌中の外生菌根を採取する。野外調査に際しては、熱海市にある植物研究園を利用する。採取した試料は実験室に持ち帰り、顕微鏡を用いた直接観察、栄養培地を用いた分離・培養、菌類DNAの抽出と塩基配列の決定を行う。菌類DNAを直接解析する分子生物学的法により、従来の形態観察や分離培養に基づく方法では十分に解析できなかった菌類の多様性を詳細に明らかにする。

期待される成果

 本研究課題を遂行することにより、伊豆七島の照葉樹林における菌類フロラを記載することができる。主要な2樹種の落葉分解菌、および菌根菌の比較を通して、異なる機能を担う菌類の多様性パターンを比較することができる。これらの伊豆七島におけるデータを、前年度に行った伊豆半島の研究データや、日本各地で行ってきたデータと比較することで、わが国における菌類の地理的な分布パターンについて明らかにし、伊豆地域に生息する菌類の分布特性(固有性ないし普遍性)と、その分布パターンを制限する要因について検討する。