植物研究助成

植物研究助成 21-04

植物に共生する微生物を利用した環境低負荷型生物農薬に関する研究

代表研究者 大阪大学 生物工学国際交流センター
助教 木谷 茂

背景

 収量・品質を追求する化学農薬の濫用は、有害な薬剤耐性菌を発生させると共に、植物生長に必要な微生物までも死滅させ、環境生態系を著しく乱す。この弊害を正すため化学農薬に代わる次世代型農薬として、植物生長を促進する、または病害を防ぐ「生物農薬」の開発が必要である。自然環境から探し出す生物農薬は、生態系への負荷が少なく、環境にやさしいという優れた特徴をもつ。しかし、従来、土壌に由来する微生物が生物農薬として開発されてきたため、植物への定着性が悪いという大きな欠点を持つ。そこで、生物農薬の新たな分離源として、植物自体に注目が集まっている。無菌状態で育てた野菜が虚弱になることから明らかなように、植物体内に共生する微生物は植物生長にとって必須の存在であり、これを利活用すれば、定着率の問題を克服し、実用的な生物農薬の開発につながると考えられる。

目的

 個々の植物種は、各々固有の共生微生物群をもつため、豊かな植生環境が共生微生物の分離源として適する。本研究では、多様性に富む伊豆半島の植物から共生微生物を分離し、その植物生長促進作用と抗病害作用を解析することにより、生物農薬としての評価を行うと共に、作用物質を同定し、環境低負荷型農薬への途を拓くことを目的とする。昨年度の研究により、植物研究園から分離した植物共生微生物は、抗植物病原菌作用を示し、生物農薬としてのポテンシャルが示唆された。本年度は、植生がさらに豊かな伊豆半島全域に共生微生物の探索域を広げ、植物共生微生物の分離とその物質解析を展開する。

方法

 気候が異なる伊豆半島の4地域(東・西・中・南伊豆)に自生する植物を採取する。我々独自の手法により、植物共生微生物を分離し、植物の根の伸長を指標にした評価系により植物生長促進物質を生産する微生物を、また植物病原菌の生育阻害を指標とする評価系により抗病原菌物質を生産する微生物を同定する。有望微生物の多様性を調査するため、遺伝子解析と生育特性解析を行う。また、活性物質本体を知るため、分離株の培養抽出液を精製し、活性物質の化学構造を種々の分析により同定する。

期待される成果

 環境生態系を乱さない、すなわち環境低負荷型の生物農薬となる微生物を、植物に共生する微生物から探索することは、実用的な生物農薬の開発を可能にする。本研究において、植物の育成を促す微生物または活性物質を同定すれば、環境にやさしい農作物・花卉の栽培法の確立に貢献できる。さらに、植物に由来する微生物は、化学農薬と異なり農作業現場で安全に利用されることが期待される。