植物研究助成

植物研究助成 21-05

シダ植物における他殖性維持機構の解明

代表研究者 東京大学 大学院理学系研究科
助教 角川 洋子

背景

 シダ植物では独立生活をする両性の配偶体上で受精が起こり胞子体を形成する。植物研究園内にも生育するゼンマイは強い他殖性があり、実験条件下で単一の配偶体を単離すると胞子体形成が起こらない。これは近交弱勢に関わり、ホモ接合体になると生存率が著しく低下する致死遺伝子などの劣性有害遺伝子をもっているからだと考えられる。一方で、近縁種のヤシャゼンマイでは単一の配偶体上で胞子体形成が起こる。繁殖様式の違いに関わる遺伝子は生態学的に重要であるが、シダ植物では詳細な解析が行なわれたことがない。ゼンマイ類は上記のような遺伝子を含むゲノム領域が明らかになっており、詳細な解析する上で適した材料である。

目的

 ゼンマイ類を用いて作成した分子マーカーの連鎖地図を解析した結果、ゼンマイに存在する対立遺伝子がホモ接合になると生存率が低下するゲノム領域がみつかっている。本研究では、植物研究園内のゼンマイにおいて、このようなゲノム領域が実際に集団内の他殖性を維持することに関わっているかどうかを検証し、劣性有害遺伝子が含まれるゲノム領域を絞り込む。

方法

 予備的な実験に基づいて劣性有害遺伝子に近接していると考えられる分子マーカーがあるので、この分子マーカー周辺のゲノム領域を重点的に調べる予定である。2011年度に植物研究園内のゼンマイ100個体をマーキングし、各個体からDNAサンプルを採取した。ゼンマイにおいて多型のある分子マーカーを3つ開発済みであり、さらに7,8個開発予定である。採集した個体について開発したマーカーを解析し遺伝子型を決めることにより、ホモ接合体だと生存率が低下する現象が自然集団内でもみられるかどうかを明らかにする。また、自然集団では組み換えが多く起こっていることから、劣性有害遺伝子を含むゲノム領域を絞り込む予定である。さらに、マーキングした個体から適当な遺伝子型をもつ個体を選抜し、人工交配実験下でもホモ接合体の生存率が低いことを確かめる。

期待される成果

 シダ植物は様々な遺伝学的な解析における利点があるにもかかわらず、ゲノムワイドな解析はほとんどされてこなかった。本研究ではシダ植物において初めて他殖性を維持する遺伝的背景を解明する。他殖性は集団内の多様性を維持する機構として重要であり、生物多様性を理解する上で重要な知見が得られると期待できる。また、シダ植物が進化生態学的な研究をする上で他の形質を解析する際にも適した材料となりうることがアピールできるはずである。