植物研究助成

植物研究助成 21-06

伊豆半島の海岸自生植物を利用した屋上緑化の研究

代表研究者 千葉大学 大学院工学研究科
助教 永瀬 彩子

背景

 近年、都市環境は悪化し、ヒートアイランド現象、都市洪水、生態系損失など深刻な問題を抱えている。建物の屋上を緑化する屋上緑化は、緑化面積が限られている都市部で、上記の問題を解決する手法として注目されている。屋上緑化は、耐荷重による土壌の制限、強風、乾燥、地温の変動など、植物にとって過酷な生育環境となるため、耐乾性のある外来種や園芸種が使用される傾向がある。生態系保護の観点から、自生種の利用が望ましいが、種子や苗の入手が困難であること、十分な研究の蓄積がないことなどから、自生種を利用した屋上緑化技術は確立されていない。一方、こうした屋上環境に類似した自然環境として、海岸が挙げられる。塩水飛沫、薄い表層土、晴天時の水不足等といった環境に生息している植物は、屋上緑化への利用の可能性は高い。そして、伊豆半島には独自の海岸自生植物群落がみられる。こうした海岸自生植物群落は希少となりつつあるため、保護を視野に入れた緑化素材の研究が望まれる。さらに、周囲の自然植生に近い植生を屋上で用いることは、地域性生態系保全の役割も果たすことになる。

目的

 上記のような観点から本研究は、生物多様性を考慮した地域の植生による自生植物を利用した屋上緑化技術のモデルを提供し、環境改善効果を示すことを目的としている。本研究では、屋上緑化の材料として伊豆半島の海岸自生植物を用いるが、一般化し他地域でも応用できるモデルの確立を目指す。

方法

 城ヶ崎海岸の植生調査を行い、植物及び種子を採取する。種子の発芽特性や休眠打破の調査、及び挿し芽による繁殖方法を調査する。実生苗を生産した後、屋上に定植させて生育調査を行う。環境保護のために培地は廃材を用い、海岸植物との適合性を調査する。屋上緑化の環境改善効果(特に生態系回復、ヒートアイランド現象緩和、雨水流出量抑制)を定量的に示し、生物多様性については植物との関係が深い昆虫相について調査を行う。

期待される成果

 今までの屋上緑化の植栽は外来種を主に使用したアメニティを中心としたものが多かった。しかし、本研究は、地域の特徴ある生態系を創出し、自生種の保護の役割を担うという点で、屋上緑化のみならず都市緑化に重要な貢献をすることが期待できる。また、地域の自生種を使う屋上緑化のモデルとして、他の地域での汎用性が高い。植物生理学では、海岸自生植物の耐乾性や種子の発芽生態の理解を促し、生態学の分野では、自然の植生を人工環境に移植した際、どのように生態系が変化するかという知見を提供できる。このように地域の植物を身近な屋上に植栽することは、学校における環境教育や町づくりにもつながる。さらに、自生種を使用した屋上緑化の複合的な環境改善効果を示すことにより、緑化の推進を図る。