植物研究助成

植物研究助成 21-08

ニホンジカが伊豆半島の自然植生に与える影響の実態解明

代表研究者 東京農工大学 大学院農学研究院
准教授 星野 義延

背景

 全国各地で、ニホンジカの生息密度の増加および分布拡大による農林業被害の増加や、自然植生への影響が報告されている。伊豆半島においてもシカの生息密度増加に伴う、農林業被害の増加とともに、自然植生にも大きな影響を与え、生態系の不可逆的な変化の進行が危惧されている。このため、伊豆半島では静岡県の特定鳥獣保護管理計画に基づき2008年から目標捕獲頭数を毎年7,000頭とする個体数管理が実施されている。
しかし、伊豆半島ではシカが高密度化する前と後の植生を比較して、群落構造や種組成の変化を実証的に示した研究がないため、高密度化が自然植生に与える影響については不明な部分が多く、その実態を解明する研究が急務となっている。

目的

 ニホンジカが高密度化している伊豆半島において、自然林や自然性の高い植生を対象として、植物の種構成や階層構造をシカが低密度であった1990年前後と高密度化した後の現在の状態を比較し、この間の植生変化の実態を明らかにすることを目的とする。また、現在の植生状態とシカ利用度や採食痕跡の多さとの関連性も明らかにする。

方法

 2011年度に調査したブナ林、低木林、ササ草原などの冷温帯植生に引き続いて、2012年度は自然性の高いモミ林やカシ林を中心とした暖温帯上部の植生について、1990年前後に植物社会学的な方法を用いて過去に調査した調査地点において、モニタリング調査を行う。また、同時にセンサーカメラによる撮影や、シカの利用度の指標としての糞粒数のカウント、採食痕やシカ道の有無などの記録を行う。得られた調査結果を過去の資料と比較し、顕著に減少した植物や増加した植物の特定など、この間の植生変化の実態を解明するとともに、減少種・増加種の生態学的な特徴について解析する。さらに、2011年度の研究成果や既存研究のある地域での結果と比較検討することで、伊豆半島でのシカによる植生影響の特徴について考察する。

期待される成果

 本研究の成果により、伊豆半島の自然植生が広がる中核地域におけるシカの植生影響がどのような傾向、規模、強度であるかを2時期のデータに基づいて実証的に明らかにすることができる。さらに、植生の変質の程度から、植生タイプごとシカの採食に対する脆弱性を評価することも可能である。これらの研究成果は変質した植生の修復、復元にむけた基礎的で科学的なデータの提供することとなり、日本におけるシカが及ぼす植生影響の実態解明に貢献するものと考える。