植物研究助成

植物研究助成 21-09

カワヅザクラ及びアタミザクラの起源と遺伝的多様性

代表研究者 東京農業大学 地域環境科学部
助教 亀山 慶晃

背景

 伊豆半島は温暖で都心に近く、保養、観光地として栄えてきた。その重要な観光資源の一つが、1月〜2月に開花する早咲きの桜(カワヅザクラ、アタミザクラ)である。カワヅザクラは1955年に発見され、1974年に学術記載、1975年に河津町の木に指定された。以後、40年にわたって育成が繰り返され、2月の河津桜まつりには200万人もの観光客が訪れる。アタミザクラは熱海市の内田勇次氏によって増殖、普及された品種で、1973年に学術記載された。カワヅザクラよりも一ヶ月早く開花し、近年は熱海市による植栽、普及活動が行なわれている。いずれの品種も、学術的にはカンザクラ(Prunus ×kanzakrua)に属するとされているが、その由来には諸説あり、議論が続いている。

目的

 本研究では、伊豆半島に分布する早咲きの桜(カワヅザクラ、アタミザクラ)に着目し、遺伝分析によってその起源と遺伝的多様性を明らかにする。サクラに関しては、作出(もしくは発見)と育成の過程で、複数の起源やクローンが存在することも予想される。従って、諸説ある親種候補の中から真の親種を特定すると共に、各品種内のクローン数(遺伝子型多様度)も推定する。

方法

 カワヅザクラ、アタミザクラの親種候補としては、カンヒザクラ、オオシマザクラ、ヤマザクラが挙げられている。本研究では、これらの分類群に加えて、親種候補間の交配実験で作出された雑種(カンヒザクラ×オオシマザクラ、カンヒザクラ×ヤマザクラ)及び多くの品種の親種となっているエドヒガンから遺伝分析用の試料(葉)を採取する。AFLP遺伝分析によって得られたバンドパターン(1/0データ)からクローンの判定を行なうと共に、ベイズ理論に基づくSTRUCTURE分析によって、その由来を明らかにする。

期待される成果

 サクラ属には数百もの品種が存在するが、その分類は混乱しており、多くの場合、起源は不明である。本研究は人為的な交配実験とAFLP遺伝分析によって、早咲き性の桜の親種を推定しようとするものであり、その学術的価値は高い。また、貴重な観光資源となっている早咲き品種の由来を明らかにすることは、今後の保護・育成に関する基礎を提供し、親種の資源的価値を再認識するきっかけになると期待される。