植物研究助成

植物研究助成 21-13

木部液組成を単一道管レベルで測定する装置の開発

代表研究者 東京大学 大学院理学系研究科
助教 種子田 春彦

背景

 乾燥ストレスに曝された植物では、茎の道管が空気で満たされて水輸送が阻害される現象(木部閉塞)が起きる。生育環境の水分条件が改善した後で植物が再び生長を回復するためには、木部閉塞を起こした道管に水を再充填して水輸送機能を回復させる必要がある。水の再充填では,茎圧によって道管内の気体に陽圧を掛けて道管液へ溶かしこむ過程を必ず踏む。しかし、近年、周囲に隣接する道管内の水に負圧が掛かっているときにも水の再充填の起きることが、多くの木本植物で報告されている。

目的

 負圧下で道管への水が再充填するためには、周囲の柔細胞から浸透的に道管内で陽圧を発生させる機構と、隣接する道管にかかっている負圧の影響を排除して再充填中の道管内にある水や浸透物質を留めておく機構の両方が働かなくてはならない。本研究では、前年度の本助成を利用して作製した装置を改良し、道管内に陽圧を掛ける機構と周囲の負圧の影響を排除する機構のそれぞれに関与する植物の性質を定量して再充填能力を評価する。

方法

 道管内に陽圧を掛ける性質は,浸透物質を能動的に道管内へ輸送する速度で評価する。一本の道管へ決まった速度で溶液を流して、反対側の切り口から出る溶液の組成と濃度の変化を測定する。周囲の負圧による影響を排除する能力は、壁孔内に空気が入ることで隣接した道管内の液体との接触をなくす構造(pit valve構造)が維持される限界圧力で評価する。Pit valve構造内の空気は表面張力で維持されている。このため、表面張力以上の陽圧が掛かると空気が道管液に溶けて消失してしまう。ここでは、一本の道管に染色液を流して2本に分岐する道管を探し、道管内の液体と空気の出し入れによって壁孔にpit valve構造を再現する。この道管へ陽圧を掛けて溶液を流し、壁孔膜を介して分岐した道管を通った液の流速を測定する。限界圧力まではpit valve構造により、この経路を溶液は流れないはずである。pit valve構造を維持できる限界圧力は、道管内の気体にかかる最大の陽圧であるとみなせる。そこで、本研究で測定された浸透物質の輸送速度とpit valve構造を維持できる限界圧は、再充填能力の強力な指標であり、これらの値を生活形の異なる複数の植物種で測定し、比較する。

期待される成果

 本研究の測定結果は、道管内に陽圧を掛ける機構と周囲の負圧の影響を排除する機構の内容を具体的に明らかにし、負圧下における再充填過程の全貌解明に貢献できる。さらに、再充填能力を定量化できるため、これの種間差を明らかにできる。この結果は、生態学的な水利用戦略や乾燥耐性の品種の選抜のための重要な知見となる。