植物研究助成

植物研究助成 21-14

2次元マトリクスパッチを用いた葉内水ポテンシャル測定ならびに光合成活性に与える葉内水ポテンシャル・葉温の影響の同時測定技術の開発に関する研究

代表研究者 岩手大学 農学部
准教授 庄野 浩資

背景

 植物の生育環境制御が可能な施設栽培では、光合成活性に強く影響する葉内水ポテンシャルと葉温を適切に制御して同活性の最大化を図るなど、効率の高い栽培管理が可能となる。しかし現実には水ポテンシャルの測定は難しく、しかも同活性の最大化のために達成すべき両要因の最適値を随時知ることはさらに難しい。このため現状では上記の様な栽培管理は実現していない。

目的

 本研究では、葉内水ポテンシャルの測定と、光合成活性に与える「葉内水ポテンシャルならびに葉温」の2元的関係の測定を、一度の作業で同時に実現する技術を開発する。本技術は、同活性と両要因間の動的な関係を通じて植物の生態を測定する新たな計測技術である。これにより、同活性の最大化のために達成すべき両要因の最適値を、随時かつ簡便に知ることが可能となる。

方法

(1)2次元マトリクスパッチ測定の原理
 数cm角の基盤上に含水性ゲル等から成る小パッチをM×Nの行列状に配置し、縦方向に水ポテンシャル勾配を、横方向に温度勾配を持たせる。また水ポテンシャル勾配の1列には光合成阻害剤を含有させる。同パッチを葉表面に一定時間圧着した後、葉裏面から定常光と飽和閃光を照射し、高感度カメラでクロロフィル蛍光の挙動を画像計測する。得られた蛍光強度の2次元分布から各パッチ部の光合成活性すなわち光化学系Uの実効量子収率ΦIIを測定する。
(2)2次元マトリクスパッチ測定から獲得可能な情報
 光合成阻害剤含有パッチ下の柔組織は、その水ポテンシャルがパッチ以下の場合、同剤が浸潤してΦIIがほぼゼロとなるため、その前後のパッチの水ポテンシャルから同部の水ポテンシャルが分かる。さらに各パッチ下の光合成系は、パッチの水ポテンシャルおよび温度の影響を受けるため、(1)で得られたΦIIの2次元分布から、光合成活性に与える両要因の2元的関係が一度に明らかになり、同活性を最大化する両要因の値が判明する。

期待される成果

 本方法により、各種の栽培現場において実際の葉内水ポテンシャルと最適値とのずれから灌水等の水管理の指針を、実際の葉温と最適値とのずれから加温等の温度管理の指針を得ることができ、光合成活性の最大化による生産性の高い栽培管理が実現する。また特筆すべきことに、本方法は水・温度の2元的環境ストレステストでもある。例えば、両ストレス負荷への応答の精査から津波被災農地に残留する生育阻害物質による生育障害を早期発見する方法として、あるいはまた、育種研究における両ストレス耐性品種等の効率的選抜方法としてなどその応用範囲は極めて広い。