植物研究助成

植物研究助成 21-15

林床設置型の群落葉量モニタリングセンサの開発

代表研究者 九州大学 大学院農学研究院
准教授 久米 篤

背景

 植物群落の単位面積あたりの葉量(葉面積指数LAI)は、植生の状態や機能を評価する上で基本的な要素である。現在、地上において主に行われているのは、群落中の植物から葉の一部あるいは全てを採取して評価する方法と、群落の光学的性質を利用した方法である。しかし、前者の方法は破壊的であり、後者の方法も、葉と幹が区別できない、測定時の天候に左右されるなどに加えて、どちらの方法も連続測定ができないなど多くの難点があった。Kume et al. (2011)は、林床で光合成有効放射に相当する400-700nmの波長(PAR)と700-1000nmの波長(NIR)の放射を測定し、NIR/PAR比を求めることで、その群落のLAIや、群落のPARの吸収率(fAPAR)の変化を高い精度で連続的に測定できる可能性を示した。

目的

 Kume et al. (2011)は、高精度の分光放射計を用いた、単一の落葉広葉樹林の結果しか示していない。そこで,PARとNIRのそれぞれの測定に特化した、比較的安価な放射センサ対をLAIセンサとして用いることができることを示し、本技術の普及を図る。また植生のLAIとNIR/PARの関係は群落タイプによって系統的に変化することが予測されている。林床のNIR/PARとLAIとの関係についての群落タイプ毎の係数を得ることで、本技術の一般化を図る。

方法

 PARとNIRセンサによるLAIセンサを、各地のフィールドサイトに設置して、LAIとの対応関係を測定する。この時、既存の方法との同時比較を行い、他の方法と比較したNIR/PAR法の精度と、それらに対する優位性を明らかにする。フィールドテストは、研究代表者および協力研究者が管理・利用している針葉樹林・落葉広葉樹林(北海道・足寄)、常緑広葉樹林(九州・宮崎)、スギ・ヒノキ林・水田(九州・福岡)、熱帯林(カンボジア)、高山(富山・立山)などを予定している。

期待される成果

 群落林床に本センサを設置してデータを記録することで、林床のPAR、群落のLAI、fAPARの推定が可能になる。これらは、植生評価の基本情報であるため、本センサは様々な分野への応用が期待される;
・生物季節(フェノロジー)観測の自動化(出葉から最大葉量、落葉までの過程を、日ベースで自動測定できるので、定量的な長期自動モニタリングの実施や害虫の大発生による葉量変化の評価などが行える)
・リモートセンシングの地上計測(衛星データによるLAI計測値の基準値)
・農業(作物の成長管理のための指標,農業生産性の指標)
・森林(森林生産性の指標,植生調査,森林伐採の定量評価 )