植物研究助成

植物研究助成 21-17

植物内青色光受容体の水素結合ネットワーク構造と光サイクル反応

代表研究者 大阪府立大学 大学院理学系研究科
助教 藤原 亮正

背景

 高等植物より見出されたフラビンを発色団とする青色光受容体は、光照射による発色団の異性化や共有結合形成が起こらないため、発色団周辺の水素結合ネットワーク構造を変化させることで、機能を発現すると考えられている。その複雑さから構造は明らかにされておらず、機構の理解は困難を極めており、既存の解析方法からは詳細な情報が得られないのが現状である。構造解析法としてNMRやX線結晶構造解析が挙げられるが、試料の精製や結晶化が難しく、濃度・量が問題となるため、超高感度な質量分析法が物質科学、生命科学の広範な分野で主要な分析手段として飛躍的に重要性が増してきている。しかし、質量数だけから構造を推定するのには限界があり、質量分析感度で構造の情報を同時に得られる分析・解析手法の出現が益々希求されるようになってきている。

目的

 フラビンを発色団とする青色光受容体がシグナル伝達状態を形成する水素結合ネットワーク構造を明らかにすることを目的として、水素結合クラスターや超分子錯体の質量と構造の超高感度同時計測法を確立する。パルスレーザーとイオントラップを用いる本計測法では、フェムト秒から数十分に及ぶ広い時間スケールでの構造・反応解析が可能であり、揺らぎの中での化学反応機構を分子レベルで解明していく。

方法

 孤立分子集合体であるフラビン‐ペプチド錯体を、青色光センサー蛋白質の局所構造モデル系とし、系統的な精密分光解析から水素結合等の分子間相互作用を鋭敏に反映した構造情報を得る。構成分子を規定し、錯体形成や温度(4-400 K)による構造変化、それに伴う電子構造変化を分子レベルで解析することで、制御・階層化された分子システムの機能発現機構の研究を行う。

期待される成果

 本申請研究で確立する質量と構造の超高感度同時計測法によって、制御・階層化された分子システムの機能発現機構の実験研究が可能となる。分子システムの機能は、ナノスケールの多様な分子が集まってシステムとしてエネルギー・情報を交換しながら連携して生み出される。分子システムの調和ある反応過程(物質・情報変換過程)の機能探索によって、ナノスケールの分子の特性を活かしつつ、マイクロスケールの高次階層分子システムの機能発現制御の研究開発が新展開される。
 本研究は時間軸を積極的に組み込み、時空間不均一性制御により穏やかな条件下で確実に起こる分子システムの機能発現を目指す点で、主に静的、エネルギー的観点から構築されてきたナノサイエンスとは大きく異なる。本研究から、攪乱や揺らぎの中でも確実に物質変換(反応)、エネルギー変換、情報処理が機能する分子システムを目指す研究領域が新展開される。