植物研究助成

植物研究助成 21-18

軟X線顕微鏡による有毒藍藻の細胞内構造可視化法の開発

代表研究者 関西医科大学 医学部
准教授 楠本(竹本)邦子

背景

 淡水域には,水道水に異臭味やカビ臭を与えたり,発癌性物質や神経毒性物質を生産する藍藻がいる。環境省ではこれらを環境監視項目とはしていなが,各都道府県では監視体制を敷いている。 
 藍藻の同定の現状は,形態分類が主で,光学顕微鏡法により同定・分類を行っている。そのため,分類には経験が要求され,特に,ナノ植物プランクトンやピコ植物プランクトンに分類される微細藻については,光学顕微鏡の分解能不足から,結果が分類者によって異なってくることもある。更に,形態学的には有毒種であっても毒性が発現する株としない株が存在することもある。このように,有毒微細藍藻類の監視では,従来の形態分類によらない,確実かつ容易な分類技術の確立が求められている。

目的

 本申請では,生きた状態に近い微小藍藻の細胞内微細構造を,軟X線顕微鏡法で可視化し,有毒藍藻類を確実に識別する方法の確立を目指す。

方法

 軟X線顕微鏡は,主に物質を透過する時のX線の吸収量の差をイメージングする顕微法である。物質のX線の吸収率は,試料の厚み,構成元素および使用するX線のエネルギーによって決まる。更に,各元素はそれぞれ特有のイオン化エネルギー(吸収端)を持ち,この吸収端の前後ではX線の吸収率に大きな不連続変化が生じる。これらの特徴を生かし有毒種固有な細胞内構造や特定元素の可視化を行う。
 試料は,琵琶湖から分離培養した微小藍藻で,カビ臭を発現する株としない株があるPhormidium tenueを用いる。P. tenueの細胞内微細構造を,軟X線顕微鏡を用い,染色や化学固定や薄片化することなく,生きている状態に極めて近い状態で,100 nm以下の分解能で観察する。観察エネルギーは280 〜 700 eVとし,カビ臭を発現する株としない株の微細構造の違いが明確に現れる観察条件を見つけ出し,有毒微小藍藻類の識別法の確立を目指す。さらに,軟X線顕微鏡法で得られた細胞内構造を,電子顕微鏡法と間接抗体蛍光法で同定し,毒性と微細構造との関連についても検討する。

期待される成果

 本研究により,専門家でも曖昧で統一できなかった特定微小藻類の分類・同定と有毒藻類の識別を,軟X線顕微鏡観察像から瞬時に誰にでも行うことができる。現在,軟X線顕微鏡観察ができる施設は限られるが,専用セルと冷蔵宅配便を利用することで遠方の試料の観察にも対応できる。また,方法が確立されれば,簡易装置の開発や施設が増えることも期待される。