植物研究助成

植物研究助成 21-19

クロロフィル蛍光を利用した植物の温暖化ストレス耐性評価法の確立

代表研究者 弘前大学 農学生命科学部
教授 杉山 修一

背景

 南北に延びる日本列島には亜寒帯から亜熱帯気候が広がっており、気候温暖化が自生植物種の分布変化を引き起こしやすい。実際、ブナ林は温暖化の影響により今後数十年後には本州の多くの地域で絶滅すると予測されている。しかし、この予測は、現在の分布範囲を将来の気候変化に単純に外挿したもので、信頼性の高い予測にするためには温暖化に対する植物の生理的耐性能力を組み入れる必要がある。クロロフィル蛍光測定は、葉を破壊せずに植物の光化学系IIの機能損傷を迅速に評価する方法である。申請者は、近年、クロロフィル蛍光を利用し、イネ科草本の気候温暖化に対する生理的障害は高い気温が長期間続くことにより活性酸素種が生成され、その酸化ストレスによる障害が原因となっていることを明らかにした。しかし,この知見が日本の主要な植生を構成する樹木種についても当てはまるかは明らかではない。

目的

 本申請では、クロロフィル蛍光を利用し樹木種を含む日本在来植物の温暖化ストレス耐性評価法を確立することである。本研究では,上記目的を達成するために以下のことを解明する。第一に,温暖化によって生じる異なるストレス、つまり(1)夏期の平均気温の増加(暑い夏)、(2)暑い期間の増加(長い夏)、(3)異常高温の頻発(異常な夏)のうち、どのタイプのストレスが植物に障害を与えやすいかを明らかにする。第二に,温暖化によるストレス障害を,高温による直接的損傷と酸化ストレスによる間接的損傷のどちらのメカニズムが関与しているかを明らかにする。

方法

 研究材料は,日本列島で南北に異なる分布域域をもつコナラ属(Quercus)5種を用いる。アラカシ(Q. glauca)とシラカシ(Q. myrsinaefolia)は関東以西の温暖地に、ミズナラ(Q. mongolica)とカシワ(Q. dentata)は北海道と東北に主要な分布域があり、コナラ(Q.serrata)は北海道を除く全国に分布する。この地理的分布の異なるコナラ属5種のポット栽培実生をグロースチャンバーで3種類の温度ストレス条件(暑い夏,長い夏,異常な夏)におき,クロロフィル蛍光(Fv/Fm)の変化からストレス障害を調査する。さらに、生体膜の過酸化度と生体膜の物理的損傷度を調査し、障害が温度ストレスによるものか酸化ストレスによるものかを明らかにする。

期待される成果

 本研究の意義は 、温暖化を3つのタイプのストレスに分けて評価することで、植物の温暖化に対する耐性メカニズムの解析が進み、日本列島における植物の分布変化の信頼できる予測が可能になることである。