植物研究助成

植物研究助成 21-20

伊豆半島の海岸クロマツ砂防林を災害に強い照葉樹防災林に転換する

代表研究者 静岡大学 理学部
特任教授 増澤 武弘

背景

 日本列島東海地域の海岸植生はクロマツの人工林かまたは替在自然植生である照葉樹林である(宮脇1987)。本年3月の東日本大震災における津波により、東北地域太平洋岸のクロマツ林のほとんどは壊滅状態となった。これを踏まえ、破壊されたクロマツ林の予備調査を行った結果、クロマツ林は津波の影響を受けやすく、津波などの外力に弱い針葉樹特有の性質が予測できた(申請者等2011年調査)。本研究の計画では、東北地域の海岸で津波に対し強い抵抗性を示した照葉樹に注目し、その性質を生かして伊豆半島における海岸のクロマツ林を照葉樹に変えていくことを試みるものである。 

目的

 日本列島においては、海岸林の代表的なものはクロマツ林である。クロマツは古く江戸時代から砂礫移動防止、砂の飛散防止のために海岸に植林された。東日本大震災では海岸のクロマツ林は津波により、そのほとんどが壊滅的な被害を受けた。このことから、現在、日本列島の多くの海岸に植林されているクロマツにかわり、替在自然植生である樹種を植林することを提案するものである。特に東海地域において、替在自然植生である照葉樹林を植樹して、クロマツ林よりも、より津波に抵抗能力を持つ照葉樹林を成立させるための理論的根拠と方法を確立する。また、実践的に静岡県の三保の松原、大浜海岸にて、潜在自然植生である照葉樹林の育生を試みる。

方法

1.平成23年度には、東日本震災地の海岸林の状況について予備調査を行ったその結果をもとに平成24年度には破壊されたクロマツ林と残存した照葉樹の詳細な現地調査を行い、津波に抵抗性をもつ照葉樹の樹種を特定する。
2.静岡県で過去の台風等による被災地に残存してきた潜在自然植生である海岸自然林を調査し、抵抗性をもつ照葉樹からなる自然林の構造を明らかにする。
3.初年度から、照葉樹の数種について、実生・幼樹の育生・移植を試み、対象とする照葉樹が砂質土壌(砂浜)移植可能であることを明らかにする。実験区(実験林)は長期間にわたり、静岡大学・静岡県・静岡市に管理が引き継がれる。

期待される成果

 伊豆半島に過去の大型台風による高波の被害に抵抗性を示した「ウバメガシ海岸林」、「ビャクシン・シロダモ海岸林」、「イヌマキ海岸林」がある。これらを植生調査、毎木調査の対象とする。調査と実験の結果を生かして、津波などの災害に強い照葉樹による防災林が成立すれば東海地震に対する「減災」に大きな効果が期待できる。また、提案する内容は陸前高田市の高田松原の再生に利用できるため、東日本大震災復興(改善、回復、保全)の一助となりうる。