植物研究助成

植物研究助成 21-21

北上川河口ヨシ群落の植生の多様性損失と回復過程の定量評価

代表研究者 京都大学 大学院地球環境学堂
准教授 田中 周平

背景

 津波による影響で北上川河口部の水生植物群落に大きな被害が出ている。震災による大きな攪乱により外来植物等が侵入・繁茂することが懸念される。生物多様性条約では「生態系を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」を具体的な取組みとして義務化し、環境省は、国内外における侵略的外来種をリスト化し、その周知および規制を図っている。しかし、生態系および生物多様性に影響を与える外来種のリスク評価および侵入・定着メカニズムの解明、駆除や化学物質等による蔓延防止策の構築等、解決に向けた課題は多い。解決のためには、種を含めた多様性に関する情報をより詳細に把握することが重要であると考え、従来の植生調査結果を定量的に評価・活用する新たな調査解析手順および沿岸植生の多様性損失評価法の開発を着想した。

目的

 主目的は、震災被害を受けた東北地方の沿岸植生の多様性損失と回復過程の定量評価を早急に行い、保全施策立案のための情報を整備することである。最終的にコスト計算も含めた実現可能な管理計画を持つには、地域固有の自然生態系に侵入する外来種の早期発見およびモニタリング、生態系に生じる影響を評価する必要がある。本研究により、外来種侵入の早期発見や貴重種の生育環境の保全施策を具体的に立案するためのベースが整備される。

方法

 (1)沿岸植生の多様性損失評価法の確立、(2)震災被害を受けた水生植物群落の多様性回復過程の定量評価および要因の検討、(1)(2)の結果を有機的に検討し、北上川河口ヨシ群落の植生の多様性損失と回復過程の定量評価を行う。概要を記す。(1)平成20〜22年に琵琶湖岸水生植物群落132群落、118haの植生調査を行い383種の植生図を作成した。本研究では前回調査から2〜4年間の植生変化を調査することで多様性損失評価法の確立を行う。(2)北上川河口には雄大な水生植物群落が広がっていたが、震災の影響により70%程度が損失したと報告されている。本研究では、面積のみでなく植物種の観点からみた多様性の損失状況を明らかにし、その回復過程を定量的に評価する。

期待される成果

  本研究により、生態系の現状・変化状況の解明を促進し、生物多様性の観測・評価・予測手法の標準法を確立できる。また、水生植物群落における貴重植物種の生育と環境条件の関係に関する検討結果から、絶滅危惧種の保全・増殖に係る統合手法の開発に貢献できる。同様に、外来植物種の生育現況と環境条件との関係の検討結果から、外来植物の生育特性の把握が可能となり、それらの繁殖を防ぐための物理化学的な防除システムの検討が可能となる。