植物研究助成

植物研究助成 22-02

伊豆半島における外来植物群落の撹乱条件に対する植生学的評価

代表研究者 (公財)地球環境戦略研究機関 国際生態学センター
上席研究員 村上 雄秀

背景

 外来種問題は日本の生物多様性の保全上の四大危機のひとつである(生物多様性国家戦略2012-2020)。日本の外来植物は1,553種に達し在来植物約7,000種の20%以上に達する(環境省2002)。かつて市街地などの人工景観域でのみ観察された外来植物は河辺・海岸などの自然景観域にも侵入し、そこに生育する在来の希少種などとの競合が生じている。在来種の絶滅に外来種が関係した事例もある(岩槻 2001)。近年はノハカタカラクサなどの森林に侵入する外来種も分布を拡大しその実態の把握と防除は急務である。

目的

 外来植物の侵入・定着には人為的な撹乱が関与する(宮脇 1977)。しかし多くの外来植物は撹乱耐性型とされるのみで、その拡大要因である撹乱の内容や質は明らかでない。本研究は外来植物の侵入・定着に際しての環境の選択性を明らかにすることを目的とする。多くの自然度階級の植生において外来植物の定着量と種構成、人為/自然撹乱の質的・量的な関与を解析し、外来植物の拡大要因の抽出を行う。伊豆半島は海洋性気候下に海岸のイソギク-ハチジョウススキ群集から山地のヤマボウシ-ブナ群集までの多彩な自然植生に加え、海岸の観光地、丘陵の里山、山地のシカ増殖地など撹乱環境下の植生も多い。

方法

 本研究は伊豆半島に生育する全ての植生を対象としている。2013年度は主に山地を対象にブナ自然林や代償植生である植林・二次草原などの在来/外来植物群落を対象に植物社会学的調査を実施する。得られた植生調査資料は種組成の差により類型化され、植物群落として単位化される。各植生単位について被覆指数(Deckungswert: Braun-Blanquet 1964)や出現頻度から外来植物の侵入量を定量化する。植生を環境指標として、成立環境、動態、撹乱条件(人為・自然)などの面から解析し、外来植物の定着の選択性を明らかにする。

期待される成果

 伊豆半島は比較的均質な地理的・気候的な環境下で多彩な撹乱条件下の植生が生育する。多様な植生への外来植物の侵入特性の解明は植物研究園を含む伊豆半島の生物多様性の保全に寄与する。さらに海に囲まれた日本のモデルとして全国に普遍化できる。シカ食害地など、近年の新たな攪乱に伴う外来植物の侵入は全国レベルの課題であり、生物多様性保全上の緊急テーマである。