植物研究助成

植物研究助成 22-04

ニホンジカが伊豆半島の自然植生に与える影響の実態解明

代表研究者 東京農工大学 農学部
准教授 星野 義延

背景

 ニホンジカの生息密度の増加と分布拡大は、残された保全価値の高い自然植生に甚大な影響を与え,自然生態系に不可逆的な変質をもたらしている。このため、シカ個体数の適正密度管理とともに、影響を受けた植生の保全・復元対策が求められるが、シカによる植生影響プロセスに関する科学的知見の乏しさから、保全・復元対策の開始が遅れ、被害拡大を助長させている。伊豆半島でもシカの密度増加が著しく、個体数調整に代わる植生被害軽減のための自然植生の効果的な保護対策の実施が急務となっている。このため、シカが高密度化する前と後の植生を比較して、自然植生に与えるシカの影響の実態を解明し、植生保全・復元に結びつける生態研究の実施が求められている。

目的

 伊豆半島の自然植生に与えるシカの影響の実態を解明するために、冷温帯域から暖温帯域に分布する自然林を対象として、植物の種構成や階層構造をシカが低密度であった1990年前後と高密度化した現在と比較し、植生タイプの違いに着目してニホンジカの密度増加にともなう種組成や群落構造などの植生変化を明らかにし、シカ利用度や採食痕跡と植生変化との関連性を検証する。

方法

 ブナ林などの冷温帯自然林、モミ林、スギ林などの冷温帯下部から暖温帯上部の自然林の調査に引き続き、スダジイ林、タブノキ林などの暖温帯自然林を対象に1990年前後に植物社会学的な方法を用いて過去の調査地点と同一地点において、モニタリング調査を行う。また、同時にシカの利用度の指標としての糞粒数、採食痕やシカ道の有無を記録する。調査結果を過去の資料と比較して、顕著に減少した植物や増加した植物の特定などを行い、植生変化の実態を解明する。減少種・増加種の生態学的な特徴や植生帯や植生タイプの違いによる植生変化の特徴をシカの利用度と関連付けて解析する。さらに、伊豆半島のシカによる植生影響の特徴を考察し、保全対策への提言をまとめる。

期待される成果

 伊豆半島の自然植生へのシカの影響がどのような傾向、規模、強度であるかを2時期のデータに基づいて実証的に明らかにできる。シカの採食に対する脆弱性を植生の変質の程度から評価することで、多様な自然林の修復、復元にむけた基礎的で科学的なデータを提供する. シカによる植生被害が深刻な日本の自然植生の変質の実態解明と保全対策の推進に貢献できる。