植物研究助成

植物研究助成 22-06

シダ植物における他殖による遺伝的多様性維持と自配受精能の進化

代表研究者 首都大学東京 都市教養学部理工学系
准教授 角川 洋子

背景

 シダ植物の配偶体は一般的に両性だが、多くの2倍体種では1つの配偶体上での受精により胞子体が形成される自配受精が起こりにくいことが知られている。一つの要因としてホモ接合体になると生存率が低下する劣性有害遺伝子の存在が想定されていたが、申請者の今までの研究から実際にゼンマイの連鎖群11に劣性有害遺伝子が存在することが示唆された。野外集団における集団遺伝学的な解析により、その遺伝子座の位置はEST_606付近というところまで絞り込まれた。自配受精を妨げる遺伝子座は他殖性を維持する遺伝子座でもあり、本研究は遺伝的多様性を維持する機構を解明する研究として進化生態学的に重要である。

目的

 自配受精がほとんど起こらないゼンマイから、姉妹種で渓流沿いに生育するヤシャゼンマイが種分化し、その過程で自配受精能を獲得し分布域を拡大したと考えられる。一般的にも、特殊な生育環境をもつ種では単一の胞子で集団が形成できる自配受精が有利であり、生育環境が広い種では遺伝的多様性を生み出し維持する他殖性が有利であるというように、両者の間にトレードオフが存在することが考えられる。本研究では、ゼンマイ類8種における自配受精能を調べ、生育環境と自配受精能の関係を明らかにする。また、他の種でも連鎖群11が自配受精を妨げる役割があるかどうかを明らかにする。

方法

 現在調査中の植物研究園内のゼンマイと京都保津峡のヤシャゼンマイに加えて、伊豆半島修善寺のシロヤマゼンマイなどゼンマイ類8種の自配受精能を調べ、高い他殖性を維持している種と自配受精能がある種を明らかにし、系統樹に基づいて自配受精能がどのように進化したのかを議論する。さらに、自配受精能が低い種に関しては人工交配集団を解析し、連鎖群11が関わっているかどうかを調べる。

期待される成果

 申請者が作成した遺伝地図を基礎とした解析を行うことにより、繁殖様式の進化について新たな知見が得られると期待できる。特に他殖性を維持する機構の解明は、遺伝的多様性を生み出し多様な環境に適応する機構として生物多様性を理解する上で重要な課題である。