植物研究助成

植物研究助成 22-08

伊豆半島、島根半島と隠岐諸島に自生するスイカズラ(Lonicera japonica Thunb.)の生物多様性に関する比較的研究

代表研究者 島根大学 生物資源科学部
准教授 林 蘇娟

背景

 日本国内では北海道から琉球諸島まで広く分布するスイカズラ(Lonicera japonica Thunb.)は地理分布と生育環境により形態的多型であることがよく知られているが、生物多様性の調査や細胞遺伝学的研究は少なく基礎データが不十分である。昨年中の予備的調査により島根県産のスイカズラについては2倍体のほか3倍体が発見された(林,2012)。形態的に茎、葉、被毛の形質や花色の白〜紅の変化においても多様であり、ほぼ同じ緯度にある太平洋側の伊豆半島に自生する集団は白花日本海側の島根半島と隠岐諸島産には白花と紅花(多数)があり花形態に変異があることが確認された。しかしこれらの変異は地理的、生態環境的隔離による種内変異または系統分類学的独立した種群の分化かどうかについて実証的な調査がなされていない。また薬用資源植物としてスイカズラは古くから利用されて来たが、紅花の変異型(種)は静岡産のスイカズラ(白花)と同種であるのか薬用資源として同様に利用できるのかどうかが不明である。

目的

 本申請研究では日本産スイカズラの種分化機構と系統分類学的実態を明らかにし、太平洋側の伊豆半島、日本海側の島根半島と隠岐諸島に生育するスイカズラの地理的分布パターンと遺伝的多様性を解明することを目的とする。

方法

(1) フィールド調査を行う。スイカズラの伊豆半島、島根半島と隠岐諸島の自生地に分布状況の調査を行い、標本と実験材料(細胞学的,DNA分析用)を採集する。
(2) 形態学的比較分析を行う。植物体の茎、葉、花の外部形態形質に加え、花粉表面模様、果実の形態構造の観察によって、種、種内変異の比較、変異パターンを調べる。
(3) 細胞学的研究により、各分布域の個体群の染色体数、倍数性を確定する。
(4) サイトフロー (DNA相対量) 測定を行い、倍数体の確認と地理分布を明らかにする。

期待される成果

(1) 伊豆半島に自生する個体群と島根県産の個体群間の形態、遺伝的多様性を明らかにする。
(2) 太平洋側と日本海側の生態的多様性による種分化、島嶼地理的隔離分化機構の解明にモデルを提示することが期待される。
(3) 植物資源(花卉、薬用)として的確な評価と有効な利用をするために、スイカズラの生育環境、地理分布パターン、遺伝形質などの生物学的基礎データを提示する。