植物研究助成

植物研究助成 22-09

葉緑体ゲノム全塩基配列比較による伊豆半島ハマボウ群落の空間的遺伝構造の解明

代表研究者 東京大学 総合研究博物館
特任助教 山 浩司

背景

 ハマボウは奄美大島以北から関東南部以西の沿岸部に分布するアオイ科フヨウ属の落葉低木で、河口や入り江の塩湿地に生育する。本種は塩湿地に生育する樹木としては、日本で最も北まで分布し、大きな群落の北限は伊豆半島周辺にある。近年の開発でその生育地は全国的に減少の一途を辿り、静岡県下田市を含む複数の自治体で天然記念物に指定されている。一方で、各地の集団の遺伝的特性や結合性(遺伝子交流の実態)はほとんど理解されておらず、効果的な保全策を打ち出すためには、空間的遺伝構造の解析が不可欠となっている。

目的

 本研究では、葉緑体ゲノムの全塩基配列比較により、次の2点を明らかにする。
1. 伊豆半島のハマボウ集団の遺伝的独自性と起源:全国各地の集団との遺伝的特性の比較により、伊豆半島集団の遺伝的独自性と類縁関係の高い他の地域の集団(起源地候補)を特定する。
2. 伊豆半島のハマボウ集団同士の結合性:伊豆半島の主要4集団の空間的遺伝構造の比較により、遠隔地にある集団間の種子海流散布の実態を解明する。

方法

採集:伊豆半島の4集団、他地域の8集団から遺伝子解析用の試料を採集する。 葉緑体ゲノムの全塩基配列の決定:葉からゲノムDNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いて、各集団4-16個体の葉緑体ゲノムの全塩基配列を決定する。 遺伝構造解析:姉妹群のワタ属の葉緑体ゲノムをリファレンスとしてアライメントを行い、データマトリックスを作成する。系統・集団遺伝学的解析を行い、集団間の遺伝的類似性や伊豆半島各地の集団の結合性を明らかにする。

期待される成果

 本研究で、伊豆半島のハマボウ集団の遺伝的特性が初めて明らかとなり、効果的な保全のための基礎情報が整備される。また、葉緑体ゲノムの全塩基配列の比較を行うことで、各地の集団間の種子散布による遺伝子交流の実態を把握することができ、生育環境の違いによる他集団との結合度の違いや、近接地域に複数の集団を保持することの重要性を議論することが可能となる。さらに、本研究で用いる手法は非モデル植物の集団遺伝学や系統地理学における極めて先駆的な研究であり、これまで葉緑体DNAの遺伝的多型の検出が困難であった植物種に、新たな研究の可能性を示すものとなる。