植物研究助成

植物研究助成 22-11

マツブサ科サネカズラの送粉共生系の分子系統学的・生態学的研究

代表研究者 岐阜大学 教育学部
准教授 三宅 崇

背景

 被子植物の繁栄の一要因として動物に配偶子(花粉)媒介を託すように進化したことが挙げられている。従って、被子植物の中でも原始的なANITA植物群での送粉様式の解明は、送粉共生系の進化の理解に重要である。この中でマツブサ科の送粉様式は最も研究が遅れていた。
 これまでに、タマバエがマツブサ科サネカズラの送粉を行い、かつ花に産卵することが示唆されている。さらに岐阜県内で採集したタマバエで予備的に分子系統学的解析を行ったところ、DNA塩基配列の異なるグループの存在が示された。サネカズラは関東〜九州・沖縄に分布しており、伊豆半島の訪花タマバエ相の情報は分布の東端に位置することから重要である。

目的

 伊豆半島におけるサネカズラの訪花タマバエを採集し、分子系統学的手法により訪花送粉タマバエの種構成を他地域集団のデータと比較する。同時に、サネカズラの花に産卵する種、サネカズラの花上で生育する種を明らかにする。

方法

 伊豆半島周辺の複数集団において、開花時期に訪花タマバエを数十個体ずつ採集する。研究室内でDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAをPCR法により増幅させ、塩基配列を決定する。得た配列を他地域(岐阜、京都等)の集団及び近縁種間と比較する。また、花から採集される卵、飼育下で羽化させた成虫も同様に保存・塩基配列解析し、野外採集成虫から得た塩基配列情報と照らし合わせることで、産卵する種、羽化する種を特定する。

期待される成果

 まず、サネカズラを送粉するタマバエが中国に自生するサネカズラ近縁種の送粉タマバエ種と異なることが示されると期待される。次に、2種以上による訪花送粉が分布域に広く見られるのか、地域により訪花送粉タマバエが異なるのかが明らかとなると期待される。最後に、マツブサ科に訪花するタマバエは、送粉のみ行い産卵をしない種と、送粉し寄生(産卵し、幼虫が花を餌として育つ)するものが知られているので、サネカズラに訪花送粉するタマバエ種が複数種で、かつ産卵の有無が種により異なるようであれば、原始的な被子植物において絶対送粉共生系がどのように進化したかを考える上で重要な示唆を与えるものと期待される。