植物研究助成

植物研究助成 22-12

スダジイタマバエの大発生が伊豆地方の生物群集に及ぼす影響

代表研究者 佐賀大学 農学部
准教授 徳田 誠

背景

 生物の大発生は、生物群集に多大な影響を及ぼす。とくに、植食性の動物や昆虫類の大発生の原因とメカニズムを明らかにすることは、自然環境保全や緑地の育成・維持のために非常に重要である。これまでの予備的な調査から、伊豆諸島には、スダジイの花芽に虫こぶを形成するスダジイタマバエ(以下、本種)が高密度で分布していることが判明している。
 伊豆諸島では、スダジイは自生する唯一のシイ・カシ類であるため、本種の種子(ドングリ)生産が激減すると天然更新が妨げられるだけでなく、種子を利用するカラスバト(天然記念物)などの希少鳥類や動物、昆虫類など、生態系に甚大な影響が及ぶ可能性がある。

目的

 本研究では、(1)本種の分布と密度を詳細に調査し、スダジイの種子生産に及ぼす影響、(2) 本種の由来(伊豆地方土着か、近年侵入したものか)、 (3) 本種の大発生が、伊豆地方の生態系に及ぼす影響、(4) 本種が大発生した原因、の4つを明らかにすることを目的とする。

方法

 伊豆地方でスダジイの花芽を調査し、本種の密度と種子生産の関係を明らかにする。花芽への袋がけによりタマバエの産卵を妨害し、種子を形成させた枝を準備し、虫こぶありの枝と来訪鳥類数などを比較する。タマバエが高密度で分布する地域と、分布しない地域において、種子生産、種子を利用する生物群集を比較する。DNA解析により他地域に分布する本種との比較を実施し、伊豆諸島への本種の侵入年代を推察する。伊豆地方と九州南部で、タマバエの生存率や死亡要因を比較する。これら一連の結果を踏まえ、タマバエが生態系に及ぼす影響および大発生のメカニズムを解明する。

期待される成果

 伊豆地方は我が国の生物相を考える上で極めて重要な地域であり、重要野鳥生息地(IBA)にも指定されている。今回調査対象とするタマバエは、生態系に大きな影響を与えていると考えられるにも関わらず、その由来や生態が未解明であり、早急な調査が求められている。本研究により、タマバエが大発生した原因と、植物や動物に及ぼす影響が明らかにできれば、緑地や希少生物保護のための方策について提言することが可能となる。