植物研究助成

植物研究助成 22-13

軟X線顕微鏡法によるカビ臭発生種識別法の開発

代表研究者 関西医科大学 医学部
准教授 楠本(竹本) 邦子

背景

 淡水域には、水道水に異臭味やカビ臭を与えたり、発癌性物質や神経毒性物質を生産する藍藻がいる。琵琶湖では、1969年にカビ臭が確認感知され、その後毎年のようにカビ臭が報告されている。原因糸状藍藻は、Phormidium tenueと同定されているが、カビ臭を発生しない株の存在も報告され、カビ臭発生株の識別は困難となっている。
 申請者は、光学顕微鏡より高い分解能と電子顕微鏡(EM)より高い試料透過性を持つ軟X線顕微鏡(XM)を用いP. tenueを観察し、カビ臭を発生する株と発生しない株には微細構造に違いがあることを見いだした。
 原核光合成細菌である藍藻にとって最も重要な成育条件の一つに光条件がある。フィールドでは藍藻の生息深さや細胞数により光条件が異なる。光条件は光合成色素の含有量を変化させるので、現在カビ臭発生株識別法として用いられている落射蛍光顕微鏡観察法の適応が困難になることが予測される。

目的

 本研究の目的は、軟XMによる糸状藍藻カビ臭発生株の識別法をフィールド調査で用いるために必要な、(1)微細構造に関するデータ収集と(2)実際的な識別法について検討する。

方法

 異なる光条件で培養した糸状藍藻を軟XMで未処理のまま丸ごと観察し、カビ臭発生株に特有の細胞内微細構造をまとめる。X線多エネルギー観察とコンピュータ断層撮影(CT)も導入し、微細構造の情報量を増やす。
 P. tenueと同定されている微細藍藻で、カビ臭を発生する株とカビ臭を発生しない株を、それぞれ通常培養光条件(白色光)と赤色光条件で培養した株を、軟XM、透過型EM、低真空クライオ走査型EMおよび間接蛍光抗体法を組み合わせ観察し、カビ臭発生株識別パラメータを決定する。

期待される成果

 (1)16S rRNA系統解析等の分子生物的手法に比べ、軟XM像から分類・同定する本手法は簡便、迅速、安価であり、フィールド調査でも十分適応可能な手法である。(2) 特定微細藻類の分類・同定とカビ臭発生種の識別を、軟XM像から誰でも行える。現在、軟XM観察ができる施設は限られるが、専用セルと冷蔵便を利用することで遠方のユーザーの試料にも対応できる。