植物研究助成

植物研究助成 22-15

日射スペクトル特性の変動を加味した,PAR吸収率の推定技術の開発

代表研究者 九州大学 大学院農学研究院
准教授 久米 篤

背景

 群落のfAPAR(光合成有効放射吸収率)は、リモートセンシングによって光合成や生態系純一次生産量(NPP)を推定するための重要なパラメータであり、NPP = IPAR × fAPAR × εVとして表される。ここでIPARは表面への入射光量子量、εVはPAR吸収量の乾物への変換効率で通常5%程度である。Kume et al. (2011)は、植生下で400-700nmの波長(PAR)と700-1000nmの波長(NIR)の放射を測定し、NIR/PAR比を求めることで、その群落のLAIや、群落のPAR吸収率(fAPAR)の変化を高い精度で連続的に測定できることを示し、現在、様々な植生タイプで検証中である。一方、天空からの日射の精密分光放射測定を行った結果、散乱日射と直達日射で分光特性が大幅に異なり、これが植生のfAPARとεVに関係している可能性が明らかになった。

目的

 群落モデルによってNPPを推定するにはfAPARとεVの適切な推定が重要であるが、これらは、散乱日射と直達日射のスペクトル分布の違いと群落タイプによるスペクトル吸収特性の違いの影響を受ける。この違いを林床のNIRとPARの測定によって評価・推定するための基本モデルを作成する。

方法

 これまでに整備された観測体制を利用し、様々な植生において、植生内で高さ別に分光測定を行い、直達日射と散乱日射の群落のスペクトル吸収特性の違いを評価する。この値と植生下におけるNIRとPARの測定、および植生上の参照センサ(PARあるいは日射)による測定から、光合成器官によるPAR吸収(fAPARp)とεVの補正係数を推定するためのモデルを作成する。

期待される成果

 本研究成果により林床にNIRおよびPARセンサ、そして林外に参照センサを設置してデータを記録することで、林床のPAR、群落のLAI、fAPAR、fAPARpの推定が可能になる。すなわち、群落の光合成を行わない非同化器官の影響を除いた、光合成器官による真のPAR吸収の評価が可能になる。比較的安価で扱いやすいセンサを群落下に置くことで、その群落の葉量・光吸収量が連続的に正確に測定できるため、本技術は農業・林業への応用も含めて様々な分野へ応用できる。