植物研究助成

植物研究助成 22-21

東日本大震災後の北上川左岸ヨシ群落の植生構造調査による植生回復過程の定量評価

代表研究者 京都大学 大学院地球環境学堂
准教授 田中 周平

背景

 東日本大震災により北上川河口部のヨシ群落が大きなダメージを受けた。河口部右岸側のヨシ群落は地盤沈下の結果、その姿を消している。一方、河口部左岸側のヨシ群落は、橋げたが流されるほどの津波の影響にも耐え、半分程度のヨシ群落が繁茂している。一方で、(1)ヨシの背丈が震災前ほど高くならない、(2)ヨシが生育せずに泥干潟のような状態が続くなど、震災前のような青々とした広大なヨシ群落は復元していない。現地では、(1)についての理由検討、(2)に関してヨシの人工植栽が必要性についての議論が起こっているのが現状である。

目的

 本研究では、上記の背景を鑑み、ヨシの背丈が震災前ほど高くならない理由の検討、および、かつてヨシが生育した空間で現在ヨシが生育できていない理由の検討を行うことを主目的とする。琵琶湖岸では、土壌中のリン濃度と均等係数がヨシの生育に影響を与えていると報告されていることから、北上川左岸ヨシ群落において、土壌中の栄養塩濃度、粒度分布とヨシ生育との関係を検討する。さらに、泥干潟化したかつてのヨシ群落において、残存するヨシ根圏の採取を行い、その鉛直方向への分布と再生可能性の有無を検討する。上記の結果を集約し、今後、ヨシの人工植栽が必要であるか、もしくは自然に回復することを待つべきであるかを検討するための、基礎データを収集する。

方法

 H25年9月に北上川左岸ヨシ群落の河口部から4.8km、6.4km、8.2km、8.6km、9.0km、14.2kmの6測線(各20m幅)を対象に単独測位携帯型GPSを駆使した植生区分踏査、植物社会学的調査、地盤高測量、環境調査(土質、粒度分布、塩分濃度など)を行う。さらに、ラジコンヘリによるデジタル画像の空撮を実施し、その結果とGPS調査結果を比較することで、リモートセンシング技術の有効利用可能性を検討する。

期待される成果

  本研究により、生態系の現状・変化状況の解明を促進し、生物多様性の観測・評価・予測手法の標準法を確立できる。また、震災被害を受けた東北地方の沿岸植生の多様性損失と回復過程の定量評価を行い、収集された植生データ、環境データは、中期的な回復のための具体的な取り組みを推進する際の科学的根拠となる。