植物研究助成

植物研究助成 23-01

ツツジ科植物の分化に伴う菌根共生および無葉緑化の進化

代表研究者 帝京科学大学 生命環境学部 自然環境学科
教授 岩瀬 剛二

背景

 無葉緑植物は様々な分類群で分化しているが、中でもツツジ科は近縁に緑色葉を持つ植物が存在しており、無葉緑化の進化とそのメカニズムを解明するには適した分類群であると考えられる。一方、植物の根に菌類が共生してできる菌根は植物の養分獲得に大きく寄与しており、無葉緑化の進化においては極めて重要な役割を果たしている。ツツジ科ではこれまでに形態の異なる4種類の菌根が報告されており、他の科には見られない多様性を有しているが、我が国に分布する植物種についての研究報告例は極めて少ない。

目的

 ツツジ科の分化の過程において、無葉緑化プロセスの細胞学的および分子生物学的メカニズムの解明とその位置の特定、ならびに無葉緑化と菌根共生の形態との関係を明らかにし、植物界に広くみられる無葉緑植物の進化プロセスの実態を菌根共生という生態学的視点とともに解明することを目的とする。

方法

 ツツジ科内の8亜科すべてに属する植物を、特にシャクジョウソウ亜科については、緑葉を持つイチヤクソウ連と無葉緑であるシャクジョウソウ連の両方のサンプリングを行う。根は菌根共生の形態を詳細に調べ、分類群(各亜科および連)との関連を明らかにする。地上部については、次世代シークエンサーを用いて色素体(葉緑体)ゲノムの配列と発現遺伝子の網羅的解析を行い、バイオインフォマティクスによる比較解析を行うことで、色素体分化や光合成に関連する遺伝子群の同定、及び遺伝子の変異の有無とその程度を調べることで、分類群との対応関係および分化過程における変異の起こった位置の特定を行う。さらに、安定同位体を用いて混合栄養性(炭素源、窒素源が自ら生成吸収したものと菌根菌由来の両者)の実態を明らかにする。

期待される成果

  無葉緑植物は古くから知られてきたが、無葉緑化のメカニズムの解明は手つかずである。本研究により無葉緑化プロセスの実態が細胞学的および分子生物学的に明らかにされ、生態学的にも興味深い無葉緑植物の進化のメカニズムの一端が明らかにされる。さらに、本研究の目的は無葉緑化の分子メカニズムの解明だけでなく、無葉緑化の前提と考えられる菌根共生の進化との関連性を明らかにすることにあり、菌類との共進化の実態解明への貢献も期待される。