植物研究助成

植物研究助成 23-02

伊豆半島の接合藻類における生殖様式の進化

代表研究者 日本女子大学 理学部
助教 土金 勇樹

背景

 生物にはホモタリズムとヘテロタリズムと呼ばれる二つの生殖様式が知られている。クローン細胞間で有性生殖が行なわれる場合をホモタリズムと呼び、自家不稔であり、有性生殖に別の系統が必要な場合をヘテロタリズムと呼んでいる。多くの生物で生殖様式の進化を明らかにするための解析が進められているものの、藻類においては生殖様式の進化機構や生息域などは不明のままである。接合藻はシャジクモ藻類に含まれる藻類である。接合と呼ばれる有性生殖を行うが、接合藻以前に分岐したシャジクモ藻類には有性生殖が観察されず、有性生殖を獲得した直後の「性の原型」を保持しているとされおり、進化的に重要な位置にある。更には、+、-と呼ばれる性を持つヘテロタリック株(以下へテロ株)とクローン細胞間で接合するホモタリック株(ホモ株)が存在し、生殖様式の進化の解析が可能である。

目的

 本研究ではこの接合藻、特にミカヅキモ属に注目する。伊豆半島には湿地、湖沼、ため池、水田など、接合藻が生育する多様な止水淡水域が数多く存在する。地理的に距離の近い多様な環境の接合藻を採集し、単離された系統株の分子系統関係を解析することで、1)ホモタリズムとヘテロタリズムの進化を明らかにする。2)また、それぞれの生息域から両生殖様式がどのように適応進化してきたのかを明らかにする。

方法

 伊豆半島を中心とした止水淡水域から水サンプルを回収し、その中に含まれる接合藻の種類を調査する。系統株を確立し、接合実験によりホモ株、ヘテロ株を鑑定する。形態学的な種同定を行なうとともに、18S rDNA、rbcl遺伝子などを用いて分子系統解析を行なう。

期待される成果

 これまでの調査では、水田からホモ株が、湖沼からヘテロ株が採集された。調査を継続することで、ホモ化は水田などの環境への適応進化の結果である可能性が検証される。接合様式の進化は生物の多様性を理解する上でも重要であるにもかかわらず、陸上植物の源流である接合藻類に関しては明らかになっていない。性の原型はホモなのかヘテロなのか、この研究が植物における有性生殖の進化の機構を明らかにする上で極めて重要な例となる。