植物研究助成

植物研究助成 23-03

葉緑体ゲノム全塩基配列比較による伊豆半島ハマボウ群落の空間的遺伝構造の解明

代表研究者 東京大学 総合研究博物館
特任助教 燻R 浩司

背景

 ハマボウは奄美大島以北から関東南部以西の沿岸部に分布するアオイ科フヨウ属の落葉低木で、河口や入り江の塩湿地に生育する。本種は塩湿地に生育する樹木としては、日本で最も北まで分布し、大きな群落の北限は伊豆半島周辺にある。海岸線改変等の影響で、その生育地は全国的に減少し、静岡県下田市を含む複数の自治体で天然記念物に指定されている。一方で、各地の集団の遺伝的特性や結合性(種子散布による遺伝子交流の実態)といった個体群の維持機構はほとんど理解されておらず、効果的な保全策を打ち出すためには、空間的遺伝構造の解析が不可欠となっている。 

目的

 平成25年度は伊豆半島の4集団を含む23集団で遺伝子解析用の試料の採集と、葉緑体ゲノム全塩基配列の解析手法の確立に着手した。本年度は新たに数カ所で追加の採集を行い、次の2点を明らかにする。
1. 伊豆半島のハマボウ集団の遺伝的独自性と起源:分布域を網羅するように採集した約30集団との遺伝的特性の比較により、伊豆半島集団の遺伝的独自性と類縁関係の高い他の地域の集団(起源地候補)を特定する。
2. 伊豆半島のハマボウ集団の結合性:伊豆半島の主要4集団の空間的遺伝構造の比較により、地理的に離れた集団間の種子海流散布の実態を解明する。

方法

採集:分布南限の奄美大島等で採集を実施し、分布域を広く網羅する試料採集を完了する。
葉緑体ゲノムの全塩基配列の決定:平成25年度に開発した8組のプライマーを用いて、葉緑体DNAの全長をPCR法により増幅し、次世代シーケンサーを用いて塩基配列を決定する。約30集団から200-400個体の解析を実施する。
遺伝構造の解析:姉妹群のワタ属の葉緑体ゲノムの全塩基配列を一次リファレンスとして、個体毎の全長配列データマトリクスを作成する。系統解析および集団遺伝学的解析を行い、集団間の遺伝的類似性や伊豆半島各地の集団の結合性を明らかにする。

期待される成果

 全国各地の集団の遺伝構造を比較することで、伊豆半島のハマボウ集団の遺伝的特性が明らかとなり、生育環境の違いによる他集団との結合度の違いや、集団が孤立あるいは分断化した際の遺伝的多様性に対する影響評価など、効果的な保全のための基礎情報を整備することができる。また、新たに確立した葉緑体ゲノムの全塩基配列決定手法を用いて大規模な集団遺伝学的解析を行うことで、これまで葉緑体DNAの遺伝的多型の検出が困難であった植物種への解析手法の応用が期待される。