植物研究助成

植物研究助成 23-05

マツブサ科の送粉共生系の分子系統学的・生態学的研究

代表研究者 岐阜大学 教育学部
准教授 三宅 崇

背景

 被子植物の繁栄の一要因として、昆虫を主とした動物に配偶子(花粉)媒介を託すように進化したことが挙げられる。これは、元来成虫として植物を食害していた昆虫が、送粉者として機能しつつ花粉や蜜を報酬とするようになったものと考えられている。一方で、幼虫が食害する寄主として花を利用する昆虫も存在し、種子食害者-植物間で絶対送粉共生系へと進化した例も知られているる。マツブサ科植物は原始被子植物であるANITA群に位置し、いくつかの種ではタマバエが送粉を行う。タマバエには花粉を食べる種や花に産卵する種が知られており、絶対送粉共生系の進化を探る上で興味深い。
 岐阜県内で採集したタマバエで分子系統学的解析を行ったところ、サネカズラおよびマツブサを訪花するタマバエそれぞれで、DNA塩基配列の異なる分類群の存在が示された。特にサネカズラを訪花するタマバエでは、伊豆周辺のみに存在する分類群も存在する。

目的

 サネカズラおよびマツブサが生育する伊豆周辺および他地域において訪花タマバエを採集し、分子系統学的手法により訪花送粉タマバエの種構成をあきらかにする。同時に、生態学的な違い(花での産卵、花上で生育、花粉の採餌)を種間で明らかにする。

方法

 伊豆半島周辺の複数集団において、マツブサおよびサネカズラの開花時期に訪花タマバエを採集し、研究室内でDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAをPCR法により増幅させ、塩基配列を決定する。得た配列を他地域の集団及び近縁種間と比較する。また、花から採集される卵、飼育下で羽化させた成虫も同様に保存・塩基配列解析し、野外採集成虫から得た塩基配列情報と照らし合わせることで、産卵する種、生育する種、いずれもしない種等を特定する。

期待される成果

 マツブサ・サネカズラを送粉するタマバエの種構成および地域ごとの構成種変異が明らかとなると期待される。また、それぞれの種で花での産卵、花上で生育、花粉の採餌を調べることで、送粉者の植物利用様式がどのように進化したかを考える上で重要な基礎情報を得ることができる。