植物研究助成

植物研究助成 23-08

植物の分布に影響をもたらす繁殖干渉の実証的研究

代表研究者 名古屋大学 博物館
准教授 西田 佐知子

背景

 近縁な生物同は同一地に共存しない現象がよく見られるが、その理由はダーウィン時代からの謎であった。伊豆でもこの現象は知られており、近縁種の排他的分布や、外来種による近縁種駆逐の例もある。こうした分布を説明する新しい仮説として最近、「繁殖干渉」が提唱されるようになった。
 繁殖干渉とは、他種が繁殖過程に関わることで起こる適応度の低下をいう。植物では、近縁種の花粉がめしべに付くことで悪影響を受ける結果、実付きが悪くなる・雑種を作って同種との交配機会を失うなどの形で現れる。繁殖干渉を受けると子孫が減り、次世代では相手種の頻度が増えて悪影響がより強くなるという正のフィードバックを伴うため、短期間で排他的分布をもたらすと考えられ、その実証的研究に注目が集まり始めている。

目的

 そこで申請者は、伊豆に分布する植物を中心に繁殖干渉の実証的研究を試みる。伊豆などの植物で近縁種と排他的に分布する種や、外来近縁種に駆逐されつつある在来種で、その分布を調べると同時に繁殖様式を調べ、繁殖干渉が起こるのかどうかを検証し、それが現在の分布に関わっている可能性を探る。

方法

 伊豆周辺に分布する植物を中心に、近縁種が複数存在する種を選び、分布の概要を調査する。これらの繁殖時期・送粉者などを観察するとともに、局所的に共存する場所にて、相手種の頻度と結実率の相関を調査する。可能であれば植物園等で人工授粉を行い、繁殖干渉を実験的に検証する。また、対象種を含む属について広くサンプリングを行い、分子系統解析で類縁関係を明確にする。最終的に、繁殖干渉の強度と、類縁関係や分布様式の間に相関があるかどうか、また、そこに地理条件や気候条件がどのように関わるかを総合的に考察する。

期待される成果

 今まで植物の分布は、気候変化など、歴史的要因を中心に調べられてきた。そこに繁殖干渉という新しい視点をもたらすことにより、伊豆などで見られる特殊な分布様式をより包括的に説明できる可能性が高い。外来種による在来近縁種の駆逐については、干渉の情報から駆除すべき外来種を選定したり、花期に重点的に駆除を行なうなど、効率的予防策を考案できる可能性が高く、在来植物の多様性保全に役立つことが期待される。