植物研究助成

植物研究助成 23-11

伊豆半島における海岸植物相の生態要素の解明

代表研究者 神奈川県立生命の星・地球博物館
主任学芸員 田中 徳久

背景

 伊豆半島の海岸は、磯浜や礫浜、砂浜が複雑に入り組み、多様な環境を形成し、非常に豊富な植物相を有している。また、海岸の後背地は、多様な立地を有し、海岸に位置しながら、淡水に涵養される岩礫地や湿地などもある。しかし、このような立地環境やその植物相は、地殻変動による陸地の隆起、沈降、気候変動に伴う海水面の上昇、下降などの地質学的なタイムスケール下での環境変遷の影響を受けてきた上、2011年3月11日の東日本大震災の例を引くまでもなく、より短いタイムスケール下で発生している攪乱や、近年の人間活動による改変の影響も大きく受けて、現在の姿にある。このような状況の中で、現在みられる伊豆半島の海岸植物相を記録に留め、各植物種の生態的な位置づけを明らかにし、植物相全体の生態要素を解明することは、さまざまな要因により移り変わってきた "海岸"の特性を明らかにするための基礎資料として重要である。

目的

 伊豆半島の海岸域に生育する植物種の生態的な位置づけを解析し、植物相全体の生態要素を解明することにより、伊豆半島の海岸植物相の成り立ちに関しての知見を集積する。

方法

 既報や現地調査により伊豆半島の海岸植物相を再確認・再整理するとともに、植物社会学的な手法による植生調査を実施し、各種の生育立地を記録する。
 植物社会学的な手法による植生調査資料は、通常は植生単位の抽出に用いるが、本研究では、種ごとに展開し、群落単位でなく、各植物種の出現パターンや出現立地を解析する。その際には、これまで"海岸"という立地に結び付けられていなかった種群の生態的な位置づけも再確認する。以上により得られた個々の植物種の解析結果を総合し、海岸植物相全体の生態要素を解明する。

期待される成果

 海岸植物相全体での、生態要素を解明することで、さまざまな要因による環境変遷の影響などを解析し、伊豆半島の海岸植物相の成り立ちについての有益な情報を提供できる。さらに、海岸域に特有なレッドデータ植物やこれとは相反する存在である帰化植物の今日的な現状も明らかになる。また、わずかな湧水などにより涵養される小湿地や海跡湖など、海岸域にありながら淡水により維持されている特殊な立地に生育する植物の生態的な特性についての知見も含まれている。