植物研究助成

植物研究助成 23-13

茶樹および近縁種のカフェイン合成酵素遺伝子の染色体における多様性調査

代表研究者 沼津工業高等専門学校 物質工学科
准教授 古川 一実

背景

 緑茶の多飲は頭痛や不眠、高血圧を引き起こす。このことから万人に安心して飲めるカフェインを含まない緑茶品種の育成が望まれている。チャのカフェインはカフェイン合成酵素(TCS1)により合成される。チャとツバキは交配により雑種形成が可能な近縁種であるが、カフェインを生産するのはチャのみである。Camellia属のうちなぜチャのみがカフェインを合成するのか、また諸説ある自然界におけるカフェインの役割を明らかにすることは育種学的にも生態学的にも意義があると考えられる。

目的

 チャのカフェイン合成酵素遺伝子(TCS1)について、チャを中心とするCamellia属種間での環境における多様性や変異を明らかにする。特にPCR、DNAシークエンスおよび染色体上でのTCS1の位置をFluorescent in situ hybridization(FISH)法を用いて検出することで、染色体レベルCamellia属種間のTCS1の多様性およびカフェイン合成能の多様性について調査する。

方法

 植物研究園所有の複数のツバキ等Camellia属植物の古木および沼津高専で育成中の茶品種および種間雑種も材料として用いる。TCS1配列と近傍マーカーをターゲットにしたPCR多型を検出し、バンドを切り出しDNAシークエンスの比較を行う。また、FISH法では45S rDNA、5S rDNAのプローブをランドマークとして用い、TCS1の染色体上の位置を特定する。また、異種ゲノムから構成される染色体中のTCSの位置を明らかにするためにtotal DNAプローブを作成し、GISH実験も行う。

期待される成果

 チャ、近縁種および種間雑種のTCS1の多様性解析および染色体上のTCS1の位置情報により茶の育種に貢献し、以下の事項について貢献できるものと期待される。
・生態系におけるカフェイン含有植物の分布と遺伝様式について知見が得られる。
・カフェインを含まない緑茶品種開発に貢献でき、人の健康的な食生活への一助となる。
・チャの価値ある品種として普及がCO2吸収常緑工芸作物の産地拡大を実現し、環境へ貢献する。
・飲料中のカフェインを好まない欧米への茶葉の輸出による外貨獲得が見込める。
・チャと近縁種の基本的な核型と生態学的研究の基礎データとなる。