植物研究助成

植物研究助成 23-15

レーザー分光法を用いた光合成過程のCO2の葉内通導性の高速・多サンプル測定法の開発

代表研究者 独立行政法人農業環境技術研究所
任期付研究員 児玉 直美

背景

 植物の生産性を決定している主要因の一つは光合成過程における大気から葉内のCO2 通導性である。大気から葉内の葉緑体への拡散過程は主として2つのステップに分けることが可能である。近年、葉内部における二酸化炭素の拡散効率がこれまで考えられてきたよりも小さく気孔のそれと同等かまたはそれ以上であり光合成量を制限していることや品種や生育期によって気孔や葉内のCO2 の通導性の制限の貢献度が変化する可能性が示唆されている。そのために、そのデータの蓄積が必要とされている。

目的

 独立行政法人農業資源生物研究所のジーンバンクには『世界のイネコアコレクション』が存在する。このコレクションは世界各地のイネの対立遺伝子の多様性の90%をカバーする69品種が含まれている。葉内CO2通導性をイネの多品種の各種要因について明らかにする必要があり、多品種測定のために葉内のCO2通導性の制限要因を高速・多サンプル測定が可能なシステムを確立する必要性がある。 光合成のCO2通導性の品種間差を決定づけると考えられるCO2通導性(気孔と葉内のCO2通導性)のデータの蓄積を行う。

方法

 多サンプル測定を達成するために葉チャンバーを5連で実装した光合成・蒸散測定システムを昨年度組み上げた。このシステムによって、従来の数十倍の効率でCO2通導性の気孔による制御と葉内による制御を同時に計測することが可能になった。本年度は独立行政法人農業資源生物研究所のジーンバンクには『世界のイネコアコレクション』を用いて遺伝的背景の違うイネのCO2通導性(気孔と葉内のCO2通導性)のデータの蓄積を行う。

期待される成果

 この測定で、イネの光合成パラメータを蓄積することによって、大量データに基づいた経験モデルを作成が期待できる。世界のイネの光合成の多様性をカバーできるコアコレクションを用いることによって遺伝的な違いによるCO2拡散効率を把握することができる。これらの知見は食糧生産性への提案のみではなく、進化や生態学的意義にも知見を与えることが可能になる。