植物研究助成

植物研究助成 23-18

根の物質吸収に対する環境作用の評価と植物生産場の物質動態解析

代表研究者 山口大学 農学部
助教 佐合 悠貴

背景

 植物生産においては、過剰施肥による環境汚染、植物生産場からの養分流出による富栄養化、資源(リン・カリ鉱石)高騰による肥料コスト増など、根域の物質輸送動態が密接に関与する問題群が解決すべき重要課題となっている。植物の根による物質吸収機能は植物生産場の物質動態を支配しているが、植物の根系は地下部に広く分布するために、根系の物質吸収機能を非破壊で定量的に評価することは難しい。そのため、根の物質吸収機能の評価法は十分に検討されておらず、植物-環境系の物質動態を支配する植物の根による物質吸収に関する情報は不足している。

目的

 本研究の目的は、多様な環境条件下において非破壊の植物個体根系の物質吸収機能を評価できる技術の開発である。また本装置を用いて、植物の物質吸収機能に対する環境作用や植物-環境系の物質動態を解析し、これらの情報に基づいた高度環境制御による高収益・低環境負荷な植物生産技術の開発も目指す。

方法

 以上の目的を達成するために、まず、植物個体を対象とした根の物質吸収機能の計測システムを開発する。本システムでは、これまでに開発してきたシステムの改良により高精度化・簡便化を目指し、より多様な実験を可能とするものである。さらに開発システムを用いて、根域の温度、溶存酸素濃度および塩類濃度や蒸散速度(根における吸水速度)に作用する気温および湿度など、根の物質吸収機能に対する地下部および地上部の様々な環境作用を評価する。また、各イオンの膜輸送タンパク質の活性、根における呼吸(エネルギー生産)および根域の微生物群集などの生理機能や生物的作用を考慮しつつ、これまでに構築した速度論蒸散統合型イオン吸収モデルを応用し環境作用の解析を試みる。さらに、これらの情報に基づいた適切な施肥体系の構築により、化学肥料使用量の削減などの持続的な肥培管理法の構築を目指す。

期待される成果

 本研究によって、植物―環境系の物質輸送現象に関する重要な学術的知見を得られるとともに、化学肥料使用量を削減した持続的な肥培管理法の確立、適切な肥培管理による施肥コストの削減および栽培土壌の塩類化の回避など農業現場の課題が解決される。