植物研究助成

植物研究助成 23-20

植物群落内微気象および生体情報の計測法の開発

代表研究者 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
主任研究員 石井 雅久

背景

 植物の生育に必要な環境要因は、気温以外に、光強度、湿度、CO2濃度、空気流動、体内・土壌水分量などがあるが、わが国の温室では気温制御が一般的である。加えて、気温以外の環境要因については制御ロジックに組み込まれていることが少ない。一方、秋冬期は温室の換気窓を閉じる機会が多くなるため、室内空気は多湿になりやすい。特に、高湿度時の葉や花弁への水滴の付着・結露は、園芸作物の品質低下や病害発生を助長するが、このような環境を改善する手法として、空気流動が注目されている。また、空気流動は植物の葉面に滞留する高湿度かつ低炭酸ガス濃度の空気層を除去(葉面境界層抵抗の低下)するので、植物の病害予防と生育促進が期待できる。さらに、空気流動は人間の温熱環境改善にも寄与する。したがって、温室内と植物群落内の微気象を精密にモニタリングし、環境制御に反映させることは、園芸作物の生産性や品質の向上、農薬使用量と防除作業労力の低減、農作業者の温熱環境改善に貢献する。

目的

 温室内の環境と植物群落内の微気象および生体情報を精密に計測できる温室専用計測センサーを開発する。計測する環境要素は、気温、湿度、風速、CO2濃度、植物群落表面温度・受光量などである。温室専用環境計測センサーを開発することにより、植物の生産性と品質向上が両立した環境制御が可能となる。

方法

 従来使用されている熱電対や測温抵抗体による温度の計測法は配線を敷設しなければならず、大規模な温室を多点計測するには適さない。そこで今回は赤外線アレイセンサーを用いて、平均的に温室内の植物群落の表面温度を測定するセンサーを開発する。次に、植物群落内の微気象を精密に計測する無指向風速センサー、葉面境界層風速センサー、葉面境界層温湿度センサー、葉面湿潤センサーを開発する。加えて、環境計測センサーのセンシング能力を増強するため、植物病害予想計測器、光質計測器、風向風速計測器、PMV(予測温冷感申告)/WBGT(湿球黒球温度)等の温熱環境計測器を開発する。

期待される成果

 今回開発を試みるものに関し、その一部は国内外で試行されているが、上記のような植物群落内環境の計測を主体とした手法は既存の手法とは異なるところが多く、独創的である。共同研究者には試作等を担当する企業が参画しており、このような手法が確立すると実用化への道筋も容易であると考えられる。