植物研究助成

植物研究助成 23-21

津波被災地における絶滅危惧植物の集団維持・回復・保全に関する研究

代表研究者 東北大学 学術資源研究公開センター
教授 牧 雅之

背景

 2011年3月11日に東北地方に襲来した大津波は、多数の被災者を出しただけでなく、沿岸部の生態系を極めて広い範囲にわたって破壊した。津波被災地では、個体群が縮小した絶滅危惧種がある一方、埋土種子からの新たな個体群を成立させている種が多数見られる。

目的

 環境省によるレッドリストに基づき、津波被災地に分布する絶滅危惧種のリストを作成したところ、絶滅危惧II類以上のカテゴリーに含まれる種が約70種あった。これらの種の現状はまだ十分に把握されていない。本研究では、特に津波の被害が大きかった福島県北部から岩手県沿岸部における絶滅危惧種の生育状況を把握することを目的の一つとする。一方、津波の浸水域には、湿性植物が新たに出現している。これらには、水草類や一部の単子葉のように繁殖器官がなくては、種の同定が不可能なものがあり、遺伝子情報に基づいて、種の同定をしないことには、保全すべきかどうかの判断ができない。また、新しく形成された集団の遺伝的多様性、集団間分化、集団の起源などには不明な点が多く、保全を行う際の基礎的な情報が著しく不足している。本研究では、津波被災地における絶滅危惧植物種の現状を明らかにし、保全・回復対策に必要な遺伝的情報を収集することにある。

方法

 津波被災地における絶滅危惧植物の被災状況を明らかにするために、年3回福島県北部から岩手県の沿岸部で植物相調査を行う。この過程で、特に津波の被害を強く受けたと考えられる種については、集団サンプリングを行い、集団遺伝学的解析の試料として供する。また、同定不能である種については、葉緑体DNA変異に基づき、種の同定を行う。この段階で絶滅危惧種であることが判明した場合には、さらに集団サンプリングを行い、集団遺伝学的解析の試料として供する。

期待される成果

 東日本大震災による津波によって、近年では比類のない大規模な撹乱が東北地方の沿岸部に引き起こされた。これにより通常では非常に稀にしか生じない植物種において、埋土種子からの集団成立が促進された。これらの種は遷移が進むにつれて数年以内に集団を衰退させると考えられるので、この機会を逃すと、その生態的特性や遺伝的特性を明らかにすることが難しくなる。また、保全すべき種を認定することで、震災後の復興での土地利用計画で、自然環境を配慮したゾーニングなどの提言が可能である。さらに、水辺環境や撹乱環境を考慮したビオトープ作りの際に、植栽する植物や保全する植物の基礎データが供給できると考えられる。