植物研究助成

植物研究助成 23-22

JA-Ile輸送体を用いた傷害耐性植物の創製

代表研究者 東北大学 大学院理学研究科
助教 石丸 泰寛

背景

 病害虫等の傷害ストレスによるバイオマスの減少から生じる損失は甚大で、その実被害は、世界全体の損失量の約40%にも上ると報告されている。これは生産現場に新品種や肥料が導入されている反面、病害虫対策が追いついていないことが一つの原因である。ゆえに、植物の傷害応答、特に全身抵抗獲得性の誘導に関わる研究が数多くなされている。この全身で傷害ストレス抵抗性を向上させるためには、植物ホルモンであるジャスモノイルイソロイシン(JA-Ile)の傷害部位から非傷害部位へ伝播が必要である。しかし、植物の全身抵抗獲得性の誘導、つまりJA-Ileの全身移行の分子メカニズムは分かっていない。

目的

 植物体内の物質移行や濃度調節を司るものが輸送体であり、植物の生育に必須である。これまで申請者は金属イオン輸送体の研究を行い、新規の輸送基質、経路や調節機構を解明してきた。本研究でも、傷害ストレス応答の調節機構を解明するために、JA-Ile輸送体(JIT)の解析が切望される。JITの解析により、JA類の形態・輸送経路を明らかにすれば、新規の傷害応答の調節機構を見出せ、耐性植物の創製ひいては虫害によらないみどりの回復に結びつくと考える。

方法

同位体標識したJA-Ileをjit欠損株に投与して、JITによるJA-Ileの移行経路を正確に把握すると共に、傷害時のJITの発現部位を組織レベル・細胞レベルで解析する。JITを用いて過剰発現体を作製し、傷害時の全身獲得抵抗性誘導が遺伝子レベルで強化されたかどうかを検定する。最終的に、モンシロチョウの幼虫を用いて、傷害時の全身獲得抵抗性誘導を評価する。

期待される成果

 傷害応答時にJA-Ileが全身に輸送されるという生理学的知見は数多くあるが、その分子機構が明らかではない。申請者は、シロイヌナズナからJA-Ileの輸送体を同定していることから、傷害時の全身的JA-Ileの輸送をJA-Ile輸送体の観点から分子生物学的に説明できる。jit欠損株や発現部位の解析からJA-Ileの組織間の移行システムを明らかにすることで、全身の傷害応答付与の新規の分子機構を証明できる。最終的に、傷害時にのみ生じるJA-Ileの輸送強化を行うことで、全身獲得抵抗性誘導を増強できるJIT形質転換体の作製が可能となる。つまり、対虫害性植物によるみどりの回復のための基盤を築けると期待する。