植物研究助成

植物研究助成 24-02

伊豆半島における海洋植物の多様性調査

代表研究者 お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科
准教授 嶌田 智

背景

 海洋植物(海藻類・ウミクサ類)は、沿岸域に生育する大型の酸素発生型光合成生物で、海洋環境を支える重要な一次生産者である。海藻類は緑藻類(アオノリ等)・褐藻類(ヒジキ等)・紅藻類(テングサ等)など日本で約1500種が記載され、ウミクサ類は単子葉類オモダカ目の海産種(アマモ等)で日本に約30種が報告されている。伊豆半島には約450種の海洋植物が生育していると報告されており、1つの半島でこれほど多くの海洋植物種が生育する例は、世界でも知られていない。近年の分子データを用いた海洋植物の種多様性解析により、多くの未記載種が発見され、海洋植物はこれまで考えられた以上に多様性に富んだ生物群であることが示唆されている。また種内個体群の系統地理学的解析により、特定地域の遺伝的多様度や固有性も容易に検出できるようになった。

目的

 そこで本研究では、伊豆半島に生育する海洋植物サンプルの分子系統解析により正確に種多様性を把握し、また、次世代シーケンサーを用いた複数海洋植物種の比較系統地理学的解析により伊豆半島個体群の普遍性・固有性等を明らかする。これにより、世界で最も多くの種が生育する伊豆半島の海洋植物特性を把握し、生態学的基盤を構築したい。

方法

 [採集] 4、 7、 10、 1月の計4回、植物研究園を活用し、伊東、下田、土肥の三カ所で海洋植物を1種につき3個体ずつ採集し、藻体の一部をDNA抽出用にシリカゲル固定し、残りは乾燥標本で保管する。[種多様性解析] nrITSやrbcLなど種の認識に有効なマーカーを用いて採集サンプル全てで分子系統解析をおこなう。未記載種だと判断された場合、近縁種間と形態・生育時期/場所等を比較する。[比較系統地理学的解析] ヒジキやオゴノリなど主要7種に注目し、RADseq解析で全国の個体群(既に採集済み)と伊豆半島個体群を比較し、系統地理、多様度、固有性、普遍性などを解析する。

期待される成果

 本研究では、伊豆半島で採集した海洋植物サンプル全てで分子系統解析をおこなうことから、再現性があり世界中の種との比較が可能な分子同定により、より正確に出現種を把握する事ができる。また、比較系統地理学的解析では伊豆半島に生育する海洋植物の遺伝的特色が世界ではじめて明らかになる。これらにより、伊豆半島という地域の価値性・重要性が再認識でき、伊豆半島の海洋生態学的研究の基盤が構築され、伊豆半島の海洋植物と環境を守り育成する研究へと発展できる。本研究の分子データよる特定地域の種および個体群の多様性を同時に解析する手法は世界的にもめずらしく、また世界各地での応用が可能かつ有用で、その波及効果は非常に大きい。