植物研究助成

植物研究助成 24-05

茶樹および近縁種のカフェイン合成酵素遺伝子の染色体における多様性調査

代表研究者 沼津工業高等専門学校 物質工学科
准教授 古川 一実

背景

 チャ(茶樹:C. sinensis 2n=30)の近縁種には日本に広く分布するツバキ (C. japonica)やサザンカ(C. sasanqua 2n=90)がある。Camellia属の中でチャのみカフェインを合成するとされてきた。昨年度の実験よりツバキにおいても極微量のカフェインが検出され、カフェイン合成の代謝経路について未知の経路の可能性が浮上した。Camellia属におけるカフェイン合成能の違いの要因は育種学的、生理学的ならびに生態学的に利用できる基礎データとして重要である。

目的

 Camellia属植物におけるカフェイン合成能の多様性を明らかにするために、チャのカフェイン合成酵素遺伝子(TCS1)について各Camellia属植物および種間雑種における配列の変異と染色体上でのTCS1配列の位置を調査する。

方法

 植物研究園および沼津高専のCamellia 属植物および種間雑種を材料として用いる。下記の実験データを統合してカフェイン合成能の多様性を調査する。
1. 各材料のカフェイン量をLC-MSで測定する。
2. 各材料のTCS1についてPCR・サブクローニングの後にシークエンシングを行い、塩基配列を比較する。(昨年度にドラフトシークエンスを得ている。)
3. 挿し木根から体細胞分裂期の染色体を、蕾から減数分裂期の染色体標本を得てFISH(Fluorescence in situ hybridization )を行う。FISHプローブはランドマークとなる各種rDNA配列およびTCS1および近傍マーカーより作成する。
4. 種間雑種については、GISH(Genomic in situ hybridization)も併用することで体細胞および減数分裂に染色体対合時のプローブ配列の挙動を調査する。

期待される成果

 本実験で得られるデータは、TCS1という「成分を司る遺伝子」に着目し近縁種を比較する新たな生態学的な基礎データとなる。チャとその近縁種および種間雑種のTCS1の染色体上の変異や多様性といった情報は、近縁種と交雑をするチャ育種に貢献する。カフェインフリーチャ品種が育成されれば、幼児高齢者向けの品種として人の健康への貢献、茶樹の普及による国土の緑化、カフェインを好まない欧米への外貨獲得源となる。また、本研究の過程で得られるCamellia属の基礎的な核型も遺伝子配列に基づいたものとして刷新される。