植物研究助成

植物研究助成 24-07

シダ植物小葉類から探る根と茎の形態進化

代表研究者 日本女子大学 理学部
助教 藤浪 理恵子

背景

 植物の枝分れは見かけ上の形を決める重要な形質であり、全ての維管束植物(シダ植物小葉類と大葉類、裸子植物、被子植物)がもつ特徴である。陸上植物の形態進化において、1本の単純な軸をもつコケ植物段階から維管束植物段階へと進化した時、軸は二又状に分枝する能力を獲得したとされ、その後、茎、葉、根の3器官へと進化したと推定されている(テロム説)。したがって、維管束植物における3器官の形態進化を知るために軸の分枝の進化過程を明らかにすることは必要不可欠である。

目的

 シダ植物小葉類は、維管束植物の系統関係で最も基部に位置するグループである。小葉類の根は他の維管束植物が側根を内生的に形成するのに対し、根頂端分裂組織が二分して外生的に二又分枝する。この特徴は、全ての維管束植物の茎が外生的に分枝する様式と同じである。したがって、小葉類は系統的にも形態的にも根と茎の進化を明らかにする上で重要なグループである。本研究では、小葉類3科の根と茎の頂端分裂組織の構造と分枝様式を発生解剖学的・分子遺伝学的に解析し、他の維管束植物との比較を行い、根と茎の形態進化過程を推定することを目的とする。

方法

 静岡県函南原生林に生育するシダ植物小葉類(ヒカゲノカズラ科、イワヒバ科)と大葉類を用い、根頂端分裂組織と茎頂分裂組織の細胞分裂動態と分枝様式を発生解剖学的に解析する。細胞分裂動態は、チミジンのアナログ物質でDNA合成S期に取り込まれるEdUを小葉類と大葉類に取り込ませ、蛍光顕微鏡による解析を行う。また、分枝形成に機能する遺伝子を小葉類で単離し、野外で処理した植物体を用いてRNA in situ hybridization 法による発現解析を行い、分枝の形成機構を解析する。

期待される成果

 本研究を遂行することで、小葉類の根頂端分裂組織と茎頂分裂組織の構造維持機構を明らかにするだけでなく、維管束植物全体の根と茎の分子遺伝学的メカニズムの進化の理解に対して大きな貢献になる。さらに、化石植物やデータの不足のために未だ明らかにされていない根の形態進化に関してもアプローチできると期待される。