植物研究助成

植物研究助成 24-10

マツブサ科の送粉共生系の分子系統学的・生態学的研究

代表研究者 岐阜大学教育学部
准教授 三宅 崇

背景

 動物に配偶子(花粉)媒介を託す進化は、被子植物の繁栄をもたらした要因の一つと考えられている。従って被子植物の中でも原始的なANITA植物群での送粉様式の解明は、送粉共生系の進化の理解に重要である。ANITA植物群の中でマツブサ科の送粉様式は最も研究が遅れている。
 これまでの2年の調査で、タマバエがサネカズラやマツブサの送粉昆虫で、かつ花に産卵することが示唆された。サネカズラとマツブサの訪花タマバエはそれぞれ少なくとも4種と2種存在し、植物間で共有しないことが示唆された。

目的

 伊豆半島および国内分布域でのサネカズラ、マツブサの訪花タマバエを採集し、分子系統学的手法によりタマバエの種構成を調べる。同時に、サネカズラ、マツブサの花に産卵する種を区別し、送粉寄与や花上での生育の可否について種ごとに評価することで、マツブサ科とタマバエの送粉共生系を明らかにする。

方法

 昨年採集できなかった静岡、神奈川、および他地域のマツブサ集団で訪花タマバエを数十個体ずつ採集し、ミトコンドリアDNA上のCOI遺伝子の塩基配列をこれまでのデータと合わせ比較する。また、岐阜および伊豆半島・足柄峠のサネカズラ・マツブサの花から採集される卵(「背景」の全種を含む)を個別に飼育し、羽化後塩基配列情報と照らし合わせることで、生活環を調べると同時に、産卵、羽化する種を特定する。さらに、採集個体を実体顕微鏡で観察し体表面への花粉付着量を定量し、解剖して消化管を顕微鏡観察し花粉食の有無を調べる。

期待される成果

 期待される成果は2つに大別される。まず、これまでの2年間の研究と合わせて、サネカズラ、マツブサを送粉するタマバエと他の同属タマバエの系統関係が明らかとなり、寄主転換がどのように生じているかがわかると同時に、訪花送粉タマバエの地域分化が明らかとなると期待される。次に、マツブサ科に訪花するタマバエは、花粉食、寄生性(産卵・生育)の有無に違いが見られ、花利用様式が異なるとされているので、これらを種別に定量的に評価し、系統関係と対応づけることで、原始的な被子植物における絶対送粉共生系の進化モデルの証拠となることが期待される。