植物研究助成

植物研究助成 24-13

森林蒸散量評価のための樹液流速キャリブレーション装置の開発

代表研究者 九州大学大学院 農学研究院
助教 篠原 慶規

背景

 わが国の水資源量評価のためには、森林の蒸散量を高精度で把握する必要がある。近年、森林の蒸散量を計測する方法として、グラニエ法が多くの研究で用いられている。グラニエ法では、樹木の辺材部に、ヒータセンサーとリファレンスセンサーの2つを挿入し、その温度差から樹液流速を求める。Granier(1985)は、全樹種共通で利用可能な、温度差からの樹液流速へのキャリブレーション式(以下、グラニエ式)を提示しており、グラニエ式は森林蒸散量の評価に広く用いられている。
 しかし近年、樹木による導管構造の違い等のため、グラニエ式がすべての樹種について共通に利用できない可能性が室内実験により指摘され始めている。そのため、グラニエ式を用いて計算された蒸散量は、樹種によっては、実際の蒸散量を過小(もしくは過大)評価している可能性がある。森林における水資源量評価のために、グラニエ式がわが国の代表樹種について適用可能かどうかを早急に確認することが求められている。

目的

 わが国の代表樹種についてグラニエ式の妥当性を確認するために、大径木に適用可能なキャリブレーション装置を開発し、グラニエ式が不適切な場合は新たなキャリブレーション式を得ることを目的とする。樹幹に人工的に通水させる装置は数多く存在するが、従来の方法は枝や小径木(直径10cm程度)を対象に開発された装置であり、水資源評価で重要な大径木の幹に適用することは困難であった。本研究では、既往の方法を改良し、大径木に適用可能な装置を開発する。

方法

 大径木の適用する上で問題点となっている、通水量の確保、アタッチメント部の改良を行い、直径30cm以上の大径木にも適用可能なキャリブレーション装置の開発を行う。この装置を用い、日本の代表的樹種7種(スギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツ、ミズナラ、アラカシ、モウソウチク)について実際にキャリブレーションを行う。

期待される成果

 近年、日本の代表樹種においては、グラニエ法の計測データが蓄積され、森林間での蒸散量の比較が可能になりつつある。しかし、樹種によってグラニエ式の適用可否が異なるため、蓄積されたデータは誤差を含んだまま解析に供された可能性がある。本研究で、大径木に適用可能なキャリブレーション装置の開発を行うことで、様々な樹種でキャリブレーションを行うことが可能となる。これにより、蓄積されたデータをより真値に近い状態へ再解析することが可能になり、森林間の蒸散量の比較について高い科学的根拠をもたらすことができる。